▼長編『愛は盲目で盲目は狂気で狂気は愛情』村迫キョウの場合(×定文)
「ほら、もっと食え」
目の前に置かれた煎餅に饅頭にかりんとうに黒飴、追加で大福。
座布団に座ってお菓子を咀嚼するキョウを見詰め、定文はその顔に笑みを浮かべた。
「もっとあるからな」
「こんなに食べれないよ、定文さん」
ごくりと饅頭を飲み込んだキョウは困ったように笑う。
へにゃりとしたその笑みを見て定文はまた笑みを深める。
「キョウは甘い物が好きだろう?」
「でも、こんなには無理だよ」
元々小食な上、お昼もしっかり食べさせて貰ってからの午後三時。小腹は空いていてもそんなに多くは食べられない。
既にお腹いっぱいなのか、けふっとお腹を押さえるキョウに「仕方ないな」と定文は湯呑を差し出した。
温かなお茶が並々注がれた湯呑のお茶を一口飲めば口の中に残った餡子の風味が流れていく。
「正直、キョウが食べる姿をもう少し長く見ていたかったがな」
「何で?」
「もぐもぐと必死に口を動かす姿が、可愛らしい」
ぷにりと指でつつかれた頬にキョウが擽ったそうに笑う。
「・・・何だか、僕を太らせて食べようとしてるみたい」
「ヘンゼルとグレーテルか?安心しろ・・・食べられるのは、俺の方だろう?」
にやりと笑って頬をつついていた指がそのまま喉、胸元へと滑る。
ついには腰に触れた手をキョウの手がやんわりと止めた。
「定文さんのえっち」
「おじさんだからな。下ネタの一つや二つ言うさ」
にやにや。
定文の悪びれもしない笑みと台詞に肩をすくめる。
「若者をからかって、後悔しても知らないよ?」
「望むところだ」
むしろ早く食べてくれ。
そう言わんばかりに光る定文の目に、キョウは困ったように笑いつつも拒む素振りは見せず受け入れた。
(ホワイトデーのお返しは彼自身)