十四松くんは不思議な子。
毎日僕の家に来て、お菓子を食べてジュースを飲んで帰って行く。たまにご飯も食べて帰って行く。
十四松くんが食べている間、僕はそれを眺めているだけ。
美味しい?と問いかけると絶対に美味しいと返ってくるから、何時しか美味しい?なんて聞かなくなった。聞かなくたって十四松くんは美味しいと言いながら食べているけど。
「こんにちは!」
「こんにちは、十四松くん」
今日も十四松くんが来た。
泥だらけの靴を履いて、使いこまれたバッドを手に、にこにこ笑顔でやって来た。
「今日のおやつは!?」
「ドーナッツ。食べる前に手を洗っておいで」
「うっすうっす!」
素直に洗面所へと歩いて行く十四松くんはもう随分と僕の家を知り尽くしている。
最初に彼が僕の家に上がり込んだのは何時だったろうか。
あまりはっきりは思い出せない。何時の間にかいた気もする。
手をしっかり洗ってきた十四松くんが座布団の上に行儀よく座る。僕はそんな彼の目の前にドーナッツが載った皿を置いた。
十四松くんはパッと目を輝かせてドーナッツを掴み大きく口を開ける。
ばくっ!と勢いよくドーナッツに齧り付いたかと思えば、もぐもぐと幸せそうに口を動かした。
見ていて飽きない、気持ちの良い食べっぷり。
十四松くんの正面で頬杖を突きながらその様子を黙って眺めている僕に十四松くんが「美味しい!」と笑った。それは良かったね、と返す。
「名前さん、あーん!」
「・・・僕、甘いの苦手」
「あーん!」
有無を言わさぬ目で見られ渋々口を開ける。ドーナッツが突っ込まれた。
「美味しい!?」
「・・・甘い」
甘い物が苦手なことは何度も説明しているのに、十四松くんは毎回絶対に一口僕に食べさせる。
前に何で?と聞いたら「名前さんにも俺が美味しいって思ったもの食べて欲しいから!」という返事が返ってきた。正直嬉しかったため、何だかんだ言って結局は毎回一口だけ食べてる。
ドーナッツを食べ終わった十四松くんにオレンジジュースを差し出せばストローでズズズッ!!!と一気に吸い上げられた。良い飲みっぷり。
美味しい!と声を上げながら十四松くんが空になったコップを差し出してくる。
オレンジジュースは冷蔵庫だから「よっこいせ」と立ち上がり、台所へと向かう。
コップに並々と注いで戻ってくれば、相変わらず十四松くんはこっちを見ながらにこにこと笑っていた。いや、正確にはオレンジジュースのコップを見ながらだけど。
「というか十四松くんってさ」
そうだそうだ、と口を開く。
「何処の子?」
唐突に長年不思議だったことを十四松くんに問いかけてみた。
「あれ?そんなことも知らないで俺の事家に上げてたの?」
にこにこしながら首を傾げる十四松くんに「確かにそうだね」と言いながら追加のオレンジジュースをあげた。
ほんと、何処の子だろ。
君って何処の子?
あとがき
微妙に意味不な話でした。
実は普通にお向かいさん。
だけど主人公が引き篭もってて知らないだけ(お菓子を買ってくるのはたぶん親)。
十四松はたぶん小学生の頃(主人公が引き篭もる前)に遊んでもらった事がある。
六つ子の個性が出始めたのがその後で、しかも主人公は長いこと引き篭もりすぎて十四松のことなんか覚えてないから、大きさも性格も変わっちゃった十四松が誰だかわかんない。
何となく十四松が可哀相な話。下手すると病んでる。