※エスパーニャンコネタ
実は誰よりも人生に絶望してるカラ松成代り主とそんなこと知らなかったから酷いこと言っちゃって後から後悔する一松の話。
「毎日毎日能天気に生きてるヤツに俺の気持ちなんかわかるかよ!!!」
そんなに暗い顔すんなよ、生きてりゃきっと良いことあるって!
そう言った直後のことだった。
ぎろりとこちらを睨みつけて叫ぶように言った一松。その言葉が、俺の中にすとんっと落ちてきた。
毎日毎日能天気?そう見えていたなら万々歳。
きっと誰も、俺の気持ちなんて知らないだろう。
「お前には絶対に俺の気持ちはわからない!」
そうだな。お前が俺の気持ちをわからないのと一緒だな。
「ほんとウザい。一々俺に構って、良い人アピールでもしてるわけ?独りぼっちのゴミクズに構って勝手に満足してるんだろ、どうせ」
お前の言葉は一々俺の胸に突き刺さるな。
お前は自分自身を貶しているつもりだろうけど、お前の言葉は全部俺に突き刺さってるんだ。
ゴミクズ、独りぼっち、駄目なヤツ、要らないヤツ、エトセトラエトセトラ・・・
良い人アピール?違う違う。俺はお前に黙って欲しいんだ。俺の心に誰よりダメージを与えてくるお前に。
お前が自分を貶める言葉を吐く度に、俺の心が悲鳴を上げるんだ。
「・・・俺なんて、生きてても仕方ない人間なんだ」
「そう言うなって!俺を見ろ!こんなに明るく生きてるじゃねぇか!」
『死にたい』
笑顔が凍る。
俺と一松から少し離れた場所に、ソイツはいた。
ニャーッと鳴いたソイツ。俺の顔からみるみる笑みが無くなって行く。
ほら、一松だって驚きに染まった顔で俺を見ている。やめろ、俺を見るな。
「・・・名前?」
「いや、今のは違――」
『何で俺、思ってもないことべらべら喋らなきゃいけないんだろ。もう嫌だ、生きてるのが嫌だ。今すぐ死にたい。けど、俺が勝手に死んだら母さんたちにも迷惑かけちゃうし、葬式代とかお金の迷惑もかけちゃうし、あぁ、生きてるだけでも迷惑かけてるのに何で死んでも迷惑かけちゃうんだろ、嫌だなぁ』
「・・・悪い、ちょっとトイレ行く」
『誰も俺に期待なんてしてないんだ。俺がいなくなっても誰も気にしないし、俺がいたって良いことなんて何もないんだ。だったらせめて場の空気を悪くしないようにしないと。暗くしてたって誰も心配してくれないんだし、せめて明るく邪魔にならないように生きないと』
「・・・今の忘れろよ、一松」
『一松は良いなぁ、暗くしてたら他の兄弟が慰めてくれるんだ。でも俺には誰もいない。誰も俺の本音なんて知らないんだ。どうせ、俺は能天気な明るいヤツだって思われてるんだ。何も知らない癖に。俺の事何にも知らないくせに、知った風な口利きやがって・・・あぁ、駄目だ。こんなこと考えちゃ駄目だ。明るくしないと。明るく振る舞わないと。明るく、明るく、明るく明るく・・・』
「名前、その、俺――」
「じゃぁな一松」
『もう死にたい』
外に出た。
もうあの場にいることが出来なかった。
何という嫌なタイミングで猫が来てしまったもんだ。
よりにもよって一松に聞かれてしまうとは。今日はついてないな。いや、俺がついてる日なんて今まであったか?いや、無かったな。笑える。
トイレ行くとか言いながら外に出たから、何も持ってない。財布も携帯も、普段外に出る時はかけてるサングラスもない。
今日はちょっと肌寒いのに、部屋着同然の格好で出てきてしまった。馬鹿過ぎる。
しまったなぁ、表情が凍ったまま動かない。
サングラスがあったら、死に切った目を隠せるのに。
何処行こうかな。公園のベンチ?河川敷?何処か、ひっそり出来る場所に行きたい。誰の邪魔にもならない場所に。
あーあ、もう本当に・・・
「名前!!!!」
勘弁してくれよ。
声がした方向から一松が駆けてくる。面倒なことに、あの猫を連れて。
「何だ、一松。俺が恋しくなって追いかけて来たのか」
『どうせ俺を嗤いに来たんだろう』
「・・・そういうの、いいから」
『まさか名前兄さんがあんなこと考えてるなんて思わなかった』
「わざわざ猫まで連れて追いかけてきたのか?息上がってるじゃねぇか」
『そんなに俺の心の中を知りたいのか?人の事鬱陶しいとか言っといて、鬱陶しいことしてんじゃねぇぞ、殺すぞ一松』
「・・・ほんとは滅茶苦茶口悪いんだ」
『普段と全然イメージ違うじゃん』
「はははっ!イメージって何だ?イケてるナイスガイのイメージか?」
『あーあ、マジうぜぇ、一発殴るぞ手前』
「あのさ・・・」
『ごめんなさい』
「あ?」
『何言ってんだ手前、マジで殺されてぇのか』
「はぁ?逆にこっちが殺してやるよ、内面ブス」
『ごめんなさいごめんなさい、僕の事嫌わないで』
「意味わかんねぇ・・・どっか行けよ、今日はもうお前に構ってやれる気分じゃないんだ」
『あーあ、コイツ泣きそうになってんじゃん。弟泣かせて突き放すとかマジでクズだな。死にたい』
「泣きそうになってねぇし」
『嫌だ嫌だ、どっか行けとか言うなよ、何時もみたいに傍にいてよ』
「泣きそうっていうか、もう泣いてんじゃん」
『鬱陶しいとか言ってた癖に、よく言う』
「泣いてねぇし」
『ほんとは鬱陶しいとか思ってない。どんなこと言ってもどんなことしちゃっても、僕の傍にいてくれるのが嬉しかった。名前兄さんなら許してくれるって甘えてたから、名前兄さんの気持ちも考えずにあんなこと・・・』
「止めてくれ」
『俺がお前の傍にいたのは優しさなんかじゃない。殴られても何言われても怒らなかったのは、俺がそうされても仕方ない人間だからだ』
「何ソレ。じゃぁ僕、アンタの自傷行為の手伝いさせられてただけなんだ、馬鹿みたい」
『嫌だ、傍にいて。理由なんてどうでも良いから、ずっと傍にいて』
「馬鹿かお前」
『俺なんかが傍にいても何も楽しくないだろう。俺みたいな底辺野郎なんか・・・』
「・・・僕より暗いじゃん」
『傍にいてくれるとほっとする。息がしやすい』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
あぁ、どうすれば良いんだ。
猫はさっきからぺらぺら喋るし、一松泣いてるし、正直俺は本音が駄々漏れ過ぎて吐きそうだし・・・
けどまぁ、泣いてる一松を置き去りに逃げるなんてそれこそ外道だ。
「・・・一松」
「・・・何」
「帰るぞ」
『仕方ない。家に帰って大人しく一松の世話をしよう』
「世話なんて頼んでねぇし」
『帰る。早く帰る。名前兄さんと帰る』
・・・面倒なのに捕まったなぁ。
本音と建て前
帰ってから、猫と一松が無言のまま俺にくっ付いて離れなくなった。
わざと「弟まで魅了しちまう俺!」などとのたまってみたが、無視された挙句さらにきつくくっ付かれた。苦しい。