「あっ、名前さんおはよー」
「お、はよう?」
「あははっ!名前さん寝癖すごーい」
いや、お前の寝癖も凄いよ。
そう口を開きかけて止めた。俺は今、トド松くんの寝癖よりも気になることがある。
まず一つ、何故トド松くんが俺のベッドで俺に密着して眠っていたのか。
もう一つ、何故トド松くんも俺も裸なのか。
・・・ん?え?どういう状況?
「名前さん、僕疲れちゃって動けないよ」
「えっ」
「ふふっ、昨日は愉しかったね」
「・・・・・・」
いやいやいや、どういうことだ。
・・・駄目だ、全然思い出せない。
けれど俺の予想が正しければ、とんでもない事態に陥っているようだ。
思い出せ、思い出すんだ。どうしてこんな状況に陥ったのかを・・・
そうだ、あれは昨日の夕方だ。
会社の帰り道に近所に住む六つ後の一人、トド松くんに声を掛けられた。
名前さんと一緒に飲みたいなんて言われて「じゃぁ俺ん家来るか」と誘ったのは他でもない俺。
やったぁ!と無邪気に喜ぶトド松くんと一緒に帰宅し、スーツを脱いで適当な服に着替えた。
その間トド松くんは勝手に俺ん家の冷蔵庫漁ってて・・・あぁそうそう、トド松くんが俺が隠しておいたはずのワインを発見して「これ飲みたい!これ飲みたい!」と連呼してきたため、やむなくそのワインを飲むことになって・・・
そうだ。ワインを飲んだところまでは覚えている。高いワインをがぶがぶ飲み始めたトド松くんを軽く叱って、冷蔵庫にあった安いビールの缶を数本持ってきて、そしたらトド松くんが「お酒だけじゃ物足りないよねぇ」と言い出したから、しかたなくつまみを用意しに台所に戻って・・・
それから?んー・・・あ!そうだ、トド松くんが「ビール開けといたよー」と言いながら開け放たれたビールの缶を渡してきたからお礼を言いつつそれを煽って・・・おや?こっからの記憶が無いぞ。
「名前さん名前さん」
「・・・なんだい、トド松くん」
「もしかして昨夜の事覚えてないの?」
「あっ、いや、えっと・・・」
「わぁ、すっごい目が泳いでる」
「・・・すまない」
にこにこと笑っているトド松くんの心が読めない。
というかそろそろお互いに裸なのはよろしくないんじゃないか?あぁ、床に服が散乱してるじゃないか。今すぐ互いに服を着よう。そうしよう。それから考えよう。
「いいよ。だってあの時の名前さん、普段とは別人だったし、もしかしたら明日覚えてないかもって思ってたから」
普段と別人ってなんだ。
ベッドからじりじりと降りようとしていた俺はつい動きを止める。
「昨夜凄かったなぁー、名前さんったらほんと容赦なかったもん」
「えっ、えぇっ・・・」
状況が未だ理解出来ない。
ということは何?俺、近所に住む弟分的な存在の六つ子の一人であるトド松くんに手を出しちゃったって?そういうことなのか?そうなのか?
・・・どうしてくれるんだ、昨夜の俺ッ!!!!
可笑しい。絶対に可笑しい。確かに酒は飲んだ。けれど普段はアレより飲むじゃないか。
きっと何かの間違いだ。俺はまだ夢を見ているんだ。そうであって欲しい。
「・・・ということで」
トド松くんがにっこりと笑う。
俺はごくりと息を飲んだ。
「責任とってよね?名前さん」
相も変わらずにこにこと笑っているトド松くん。
だがその目は、有無を言わさぬ恐ろしい目だった。
身に覚えがありません
冷や汗をだらだら流しながらパニックになっている俺には、早々に『はい』か『イエス』以外の選択肢は残されていないようだ。
あとがき
お察しの通り、トッティが缶ビールに何か入れてます。
それが睡眠薬だったのか媚薬だったのかどうかはさておき、トッティの計算勝ち。完全勝利。
・・・逃げ道なんてありません。