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※カラ松事変ネタ



バイトの帰り道、何か凄い変な人を見つけた。

変な人っていうか、何か可哀相な雰囲気の人。


全身ボロボロだし、顔面から出すもの全部出しちゃってるんじゃないかってぐらいの大号泣だし、ほんとどうしたんだこの人。




「どうかしました?」

「えっ、あ・・・」


つい声をかけてしまった僕にその人はビクッと肩を震わせた。

涙と鼻水と涎でぐっちょぐちょな顔をこっちに向けた彼は見れば見る程ボロボロだ。



「凄い怪我・・・もしかして、怪我がきつくて歩けないんですか?肩、貸します?」


怪我がきつくて泣いているという雰囲気ではなかったけれど、部外者の僕がそう簡単に聞いて良いような内容ではない気がする。

出来る限り笑顔で手を差し出せば、彼は泣くのを止めて僕の手をじっと見た。それから困惑したように、僕ん顔を見た。



「い、いや、平気だ・・・わっ」

「あぁ、ほらほら。足が縺れて危ないよ」


後ずさろうとしたのか後ろへとよろける彼を咄嗟に支える。




「わ、悪い・・・」

「何で謝るの?何も悪いことしてないじゃん」


ついついぽかんとした表情で問いかければ、彼の方もぽかんとした顔をした。

そのぽかんとした表情のまま、先程涙が止まったはずの目からボロッと涙が零れるのだから驚いた。



途端に泣きじゃくり始める彼は何を言っても何を聞いても泣き声しか上げないため、やむなく僕は彼を自分の家に連れ帰ることにした。

何せあのままあそこにいたら周囲から変な目を向けられてしまうのも時間の問題だったからだ。もう何人かに変なものを見る目で見られてしまったため、手遅れかもしれないが。








僕の家のソファに座ってまだ泣きじゃくっている彼。渡したタオルはおそらくぐっちょりだ。


「・・・うーん、このままじゃ干乾びちゃいそうだ。何か飲む?」


「うっ、うぐっ、うぅううっ」

「あぁごめんね!吃驚したね!」

声をかけるとこっちを見てまた泣き出す。


涙声で「や゛ざじい゛ぃぃいいっ」と声を上げているから、もしかして優しさに飢えているのかも。もう彼の事が不憫にしか見えない。





「落ち着いてからで良いんだけどさ、事情を少しだけ教えてもらえると嬉しいんだけど」

「わ゛、がった・・・」


ぐしっとタオルで顔の水分を拭き取りながらこくこくと頷く彼の口からぽつりぽつりと語られたのは、僕からしてみればある意味ホラーな話だった。








「・・・それは、その、何て言えば良いのか」

「っ、ふっ・・・」


「うん・・・もっと泣いて良いよ。今、僕しかいないし」

話し終えるとまたボロボロと涙を流す彼の背中を擦ってやった。



幼馴染の店のツケが六人合わせて100万円?次男の自分だけ誘拐されて、海で磔にされるは火炙りにされるは、仕舞いには兄弟たちから物を投げつけられて頭部に大怪我?しかもその場に放置され、不運なことに走ってきた車に撥ねられ骨折?梨に負けた?

・・・不運過ぎやしませんか、お兄さん。


何だかこっちまで泣いてしまいそうだと目頭を押さえていると、どっと僕の胸に彼が飛び込んできた。

泣きじゃくりながら抱き付いてくる彼。男同士で何してんだと少し思うが、今此処で彼を引き剥がす程僕も外道ではない。というかむしろ抱き締めてあげたい。可哀相過ぎる。



僕には兄弟がいないからわからないけど、男兄弟ってそういうものなんだろうか。

100万円は自業自得だとしてもそれは彼だけの借金ではないわけだし、借りにも血を分けた兄弟が誘拐されている中で呑気に梨なんて食べるなんて・・・人間ホラーだ。






「兄弟はっ、きっと、何かの冗談だと、思ったんだ・・・誘拐したのはチビ太だし、デリバリーコントか何かだと・・・」

「デリバリーコントが何かはわからないけど、取りあえずお兄さんが優しいのはわかった。わかったからもう止めて、僕も泣きそうだから」


これだけされて恨み言の一つも言わないとか。部外者の自分でさえ疑問を覚える状況なのに、何なんだろうこの人。僕まで泣かせたいのだろうか。




「カラ松」




「カラ松?」

木材?



「お兄さん、じゃない」

「あっ、名前か。僕は名前。よろしく、カラ松」


たぶん同い年ぐらいだろうし、今更敬語なんて使えない。

抱き付いたままのカラ松の背中をよしよしと撫でつつ自己紹介を済ませれば、カラ松もちょっとずつ落ち着いてきたらしい。


抱き付かれたせいで僕の胸元もべっちょりなってしまったが、これは仕方のない犠牲だ。






「どうする?もう少し落ち着いたら帰る?」

まぁ、帰り辛いかもしれないけれど、取りあえず提案してみる。


勝手に家に連れて来たのは僕だし、ある程度は最後まできちんと面倒を見るつもりだ。

帰りたいなら今からでも家に送るし、まだ嫌なら晩御飯でも食べさせてあげるし。




「・・・・・・」

「カラ松?」


返事は無く、大丈夫?と問いかければ、カラ松がまた泣きそうな、けれどそれを堪える様な顔をした。




「・・・帰らなきゃ、いけないのはわかってる。けど今は・・・今は、兄弟たちに会うのが怖い」

家に帰り辛いんだ。そう言って下を向く彼はどうしてこんなにも庇護欲を掻きたてられるのか。






「・・・住む?」

その言葉はすんなりと口から出て来た。







「えっ」

「此処に住んじゃえば良いよ。僕一人暮らしだし、カラ松一人ぐらいならいても全然平気」


「そ、それは、養ってくれるということか・・・?」

「・・・結構長くいる気なんだ」

養うレベルか。ということは働く気はゼロか。


言いたいことは結構あるが、見た目のせいで何も言えない。ちょっとこの怪我人ズルい。





「養ってくれる、のか?」

「あー、うんうん。養う養う」


もうどうとでもなれ。そんな気持ちで返事をすると、またぎゅーっと抱き付かれた。



・・・まぁ、働かない分家事とかでもして貰おうかな。







同居人が出来ました








「ただいまー」

「お帰り名前。風呂が沸いてるが、どうする?」


「お腹空いた。先にごはん」

「今日はビーフシチューだ。牛肉が安かった」

「マジか、やった」




・・・あれ?僕ってカラ松と結婚してたっけ?

そう疑問に思うような状況になるなんて、カラ松と出会ったばかりの僕はまだ知らない。



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