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※次男愛され。



僕が好きな人は兄弟から異常なまでに愛されている。



それに気付いたのは、好きな人を好きだと自覚した次の日だった。


僕は好きな人、松野カラ松くんの兄弟だという人たちに呼び出された。

天気が良くて気温も丁度良い屋上で、僕はカラ松くんを除く五人に囲まれた。



にこにこと笑いながら「最近カラ松と仲が良いらしいじゃん」と話しかけてきたのはたぶん長男。

何時の間にか僕の胸ポケットからかすめ取った生徒手帳を片手に「ふーん、家結構近いんだ」と声を上げたのはたぶん三男。

僕の胸ぐらを掴んで「カラ松にこれ以上付き纏ったら殺す」と言ったのは誰だっけ、あぁたぶんだけど四男だ。

後はやたらハイテンションで「カラ松兄さんを困らせないでねー?」と言って来たり「君じゃカラ松兄さんと釣り合わないよー」ときゃはきゃは笑っていたりしたのは何番目と何番目かわからない。どちらかが五男でどちらかが六男だ。



突然呼び出されて何事かと思えば、どうやら脅しだったらしい。これ以上カラ松くんに近付くとどうなるかわからないぞという脅し。

唖然として言葉も出ない僕に彼等は何を勘違いしたのか「何だ、結構根性無いじゃん」と言い捨て、そのまま去って行った。



屋上に残された僕はといえば、しばらくしてやっと正気に戻った。

いやいや、あれは無い。ブラコンの度を過ぎた依存型の兄弟愛とかヤバ過ぎる。







幸い僕がカラ松くんへの恋心に気付いたのは昨日のことで、まだ引き返せるレベルだった。

大丈夫。明日からも普通に友人として過ごせば良い。流石に友人までなら許されるだろう。


僕は見事自身の恋心に蓋をすることに成功し、翌日から今まで通りの友人関係をカラ松くんと育むことが出来た。

・・・が、問題が起こった。




「名前が・・・好きなんだ」




何という神の悪戯か、カラ松くんの方が僕に惚れた。しかも詳しく話を聞けば、僕がカラ松くんへの恋心を自覚するよりずっと前からカラ松くんは僕に惚れていたらしい。


友人として過ごしてきたと思ったのは、僕だけだった。

カラ松くんはずっと、僕への想いをくすぶらせていた。



正直な話それはとても嬉しくって、カラ松くんを抱き締めてしまったのは仕方ない。この時点で実は恋心に蓋なんて出来てなかったことがわかった。

もし話がこれで終わりならハッピーエンド。けれどこの話はそんな話じゃない。


僕がカラ松くんの告白を喜んで受け取れば、カラ松くんと僕が両想いになる。でもそれを仕方ないと思えない人たちがいる。そう、カラ松くんの兄弟だ。

長いこと友人として傍にいたからわかることだが、カラ松くんは兄弟が大好きだ。



何を言われても何をされても、落ち込むことはあれど兄弟に対して苦言を漏らすことは一回もなかった。もはや聖人君子なんじゃないかってぐらいに、カラ松は兄弟の仕出かすことを全部綺麗に受け止めた。


おそらく兄弟が何か言えば、カラ松くんはそちらを信じる。

勝敗なんて最初からわかりきってて、勝負する気にもなれない。


一瞬の幸せの後に待ち受けているんは、おそらくトラウマレベルの絶望だ。



愛してると言い合った次の日に手の平を返すように僕を蔑むカラ松くんなんて、見たくない。見たくないが、あの兄弟たちはそうなるように仕向けてくるだろう。





「・・・悪い。突然、こんなこと言って」

何時まで経っても何も言わない僕にカラ松くんが眉を下げる。


もし此処で僕がこの告白を断れば、カラ松くんは悲しむだろう。そして悲しんだ心のまま家に帰って、兄弟たちに慰められるだろう。そうしてカラ松くんは、やっぱり自分には兄弟しかいないんだと思い直すんだ。・・・あぁ、なんて単純なストーリー。



「ううん、カラ松くんは何も悪くない」

とは言うものの、厄介ごとを運んできたのはカラ松くんで・・・


さて、悪いのは誰だろうか。


愚かにもこんな面倒な兄弟を持つカラ松くんに恋した僕か。

兄弟の歪な愛に気付かず、折角友人で居続けようと決意した僕を好きになってしまった彼か。

はたまた、僕と彼にこんなにも大きな溝を与えた彼の兄弟か。




「カラ松くんの気持ちはとても嬉しい」

「き、気持ち悪くないのか?」


「まさか。僕がカラ松くんを気持ち悪いなんて思う訳がない」

それだけでもほっとしたような顔を見せるカラ松くんに胸が苦しくなる。



僕と彼にとって一番最善の結末は何だろうか。

僕が一番傷付かなくて済む道は、この告白を断る事。けれどもそうするとカラ松くんは傷付き、カラ松くんの兄弟は大喜びで彼を慰める。

もしも僕がこの告白を受け入れれば、きっとカラ松くんは喜んでくれる。けれどもすぐに幸せは終わって、僕もカラ松くんも傷付き、やっぱり兄弟が大喜び。


・・・あれ、どちらにせよ兄弟が得する事ばかりじゃないか。ズルいなぁ。ズルすぎる。ちょっとぐらい僕にも良い思いさしてくれたって良いのに。



でも仕方ないか。なんたってカラ松くんはそんなズルい兄弟が大好きなんだ。愛しちゃってるんだ。生まれた時からずっと一緒にいる兄弟を裏切ってまで僕の事を愛してくれるなんて、そんなの有り得ない話。





「カラ松くん」

「な、何だ?」


告白の返事を口にされると思ったのか、びくびくと震えているカラ松くん。僕はゆっくりと深呼吸をした。



「告白の返事をする前に、少し質問をしても良い?」

「質問?」


「うん。まず・・・僕の事、どれぐらい好き?」

「えっ・・・あ、えと・・・凄い、好き。あの・・・前にさ、俺が兄弟の事で落ち込んでた時があって・・・その時は俺と名前はまだ友達じゃなかったんだが、名前は落ち込んでる俺に近付いてきて『お菓子、一つ食べる?』って言ってくれたんだ。たった一つのお菓子で、俺、凄く名前に惹かれて・・・」


・・・そんなことあったね。何だか辛そうな顔してたから、甘い物でもどうかなってチョコあげたんだった。

でもそうなると、カラ松くんは随分前から僕の事が好きだったんだろう。よく兄弟たちに気付かれなかったなと少し感心してしまう。




「次の質問。カラ松くんは教室に足を踏み入れました。教室には僕とカラ松くんの兄弟の誰かが一人います」

「えっ?突然何を・・・」


「ごめん、黙って聞いて。・・・僕はその場に棒立ちしていましたが、兄弟は床に倒れていました。兄弟の頬は殴られたように真っ赤に張れています。さて・・・悪いのはどっち?」


カラ松くんなら、迷うことなく兄弟に駆け寄るだろう。

そうして兄弟の傷の具合を確認してから、僕を見るだろう。どうして?どうしてこんなことを?と失望した目で見るだろう。


悪いのは僕。どんな理由かとか、どんな状況だったかとか、そんなの関係ない。





「・・・もう少し、詳しい状況はわからないのか?」

「兄弟は泣いてる」


「名前は?」

「さぁ。でも兄弟は『助けて兄さん』と言ってるよ」


「名前は?」

「どうだろう。でも兄弟は僕が殴ったと訴えてる」



「名前は、その時どうしてるんだ」



カラ松くんが真っ直ぐ僕を見る。

僕は小さく微笑んだ。




「・・・棒立ちだよ。ただ、カラ松くんを見詰めてる」

きっと僕は見つめることしか出来ない。




そんな状況になれば、弁解も何も意味をなさないんだ。

だったら無駄なことをしないで、最後にカラ松くんを見詰めて、今までの幸せだった日々を思い返すんだ。カラ松くんに兄弟の仇だとか何だの言われて殴られるまでのその短い間で。



「・・・まず、兄弟を保健室に連れて行く」

「うん」


「それから、兄弟を他の兄弟に託して、名前のところに行く」


僕に報復するために?

「名前の話を聞くために」



「僕は何も言わないよ。何を質問されても、返事をしない」

「じゃぁ、黙って名前と一緒にいる。話してくれるまで、ずっと」


ずっと、というその言葉に少しときめいた。




「兄弟を殴ったかもしれない相手と?兄弟が怖がるんじゃないかな」

「俺の兄弟はそんなに軟じゃない」


自分の兄弟に絶対の自信があるのか、胸を張って言うカラ松くんに思わず笑ってしまった。




「そっか、そうだね。カラ松くんの兄弟が、そんな軟なワケないか」

「あぁ!だから俺は、安心して名前の傍にいれるんだ」



もう我慢できない。

僕はカラ松くんに好きだと言われた時と同じように、ぎゅっとカラ松くんを抱き締めた。


腕の中で「わっ!」とか「名前っ!?」と声を上げるカラ松くんなんて無視だ。今は僕の言いたいことを言おう。




「僕もカラ松くんが好き。ずっと好きだった。恋人になりたい」

「ほ、本当か?」


「今まで遠慮してたんだ。カラ松くんは兄弟が大好きで、兄弟もカラ松くんが大好きだから」

「何でそこで兄弟の話が出てくるんだ?」



あの呼び出しの話を言うべきか言わざるべきか。

確かにあの呼び出しは「ないわー」と思ったけど、それをわざわざカラ松くんに話して兄弟の仲を引き裂きたいわけじゃない。





「カラ松くんのこと、皆大好きだから」



「そ、そうだろうか・・・何時も、痛いとかいろいろ言われるし、おそ松兄さんと比べて俺は頼りないし・・・」


兄弟が大好きだと恥ずかしげもなく言う癖に、自分が兄弟に好かれているかどうかに関してはこんなにも自信なさ気だ。

他人の僕から見ても愛し愛されてるのに、本当に愛が空振っているとしか言いようがない。




「照れ隠しだよ。本当は皆、カラ松くんのことが大好きなんだから」

「・・・そうやって、はっきり言ってくれるのは名前だけだ」


「カラ松くん?」

「名前は、俺の事好きか?」


頬を赤らめ、そう問いかけてくるカラ松くん。




「うん。とっても好き。というか、うん、こんなこと言うのは流石に恥ずかしいけど・・・愛してるんだ、カラ松くんのこと」

その瞬間のカラ松くんの笑顔は眩し過ぎた。




「俺も愛してるぜ!ダーリン!」

「ダーリン!?え、あ、あぁ有難う」


突然のダーリン呼びに流石の僕も驚いたけれど、首の腕を回してぎゅうぎゅう抱き付いてくるカラ松くんが可愛すぎて驚きも吹き飛んだ。ただただ嬉しい。




「・・・あのさ、カラ松くん。僕、たぶん、いや絶対、一生カラ松くんしか愛せないと思うんだ。だから・・・もしカラ松くんが僕のことを嫌いになっても、好きでいさせて」

「何で俺が名前を嫌いになる前提なのかは知らないが、俺だって名前に嫌われても名前のことを愛し続けるぜ」


すりっとカラ松くんが頬を摺り寄せてくる。

その頬にキスをすれば「こっちにしてくれ」と唇を押し当てられた。せ、積極的過ぎて、ちょっとビビった。







愛は障害があるほど燃える








翌日の昼、再びあの兄弟達に呼び出された。

初めて呼び出された時より何倍も目が据わってる。誰も笑ってない。



「お前さー、あの時話聞いてた?」

おそらく長男であろう男の問いに「あー、まぁ」と返事。正直目力はんぱなさすぎだろ怖い。



「ただで済むと思うなよ?」

「僕、カラ松くんから結果嫌われようとも好きで居続けるって決めたんで、どうぞご勝手に」




「・・・ちくしょー、あの時ただの根性無しだと判断したのが間違いだった」

心底悔しそうな顔をする長男様に、僕は内心指差して笑ってやった。



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