近所に住む松野さん家の六つ子とは、子供の頃から仲が良い。
シャレにならない悪戯を仕掛けられることもあったが、それ相応の報復もしっかりしてきたから恨みなんてない。
逆に、昔から割と物静かだった俺を引っ張ってくれていた彼等には感謝すらしている。
だからこそ・・・
「・・・カラ松?」
「わっ、悪い名前っ!」
「いや、別に良いんだが・・・」
突然ぶつかられて腹の上に尻餅をつかれたぐらいじゃ、怒りはしない。
だからそんなに青褪めなくても良いんだぞ、カラ松。
ちらりと視線を巡らせれば、カラ松がさっきまで立っていた場所には誰かが脱ぎ捨てたパーカーが。あぁ、色からしておそ松か。
「あ、えっと」
「別に良いって言ってるだろう」
「あ、あぁ・・・」
昔はそうでもなかったのだが、今となってはすっかり弄られキャラが定着してしまったカラ松。おそらく俺にぶつかったから、俺も他の兄弟達と同じような反応をすると思ったのだろう。
確かに他の兄弟達にこんなことをしたら、殴られるどころじゃ済まされないだろうな。
カラ松がぶつかってきたせいで読みかけの漫画が吹っ飛んでしまった。あれも確かおそ松のだったっけか。
「で、降りないのか?」
「え、えと・・・」
もう良いと言っているのにカラ松は何時まで経っても俺の腹の上から退こうとしない。
カラ松が若干膝立ちをしているからそこまで重くはないのだが、この状態では漫画が読めない。
見れば吹っ飛んだ漫画はカラ松の後ろにある。
「よいしょっと」
「えっ」
ぐいっと上半身だけ起こせばあら不思議、カラ松が俺の膝の上に跨っている状態になった。腹に感じる圧迫感に比べれば、何の問題も感じない。
カラ松の肩に顎を置いて「よっと」と漫画に手を伸ばす。
「地味に届かないな・・・ん?」
ふと気付いたが、この体勢だとカラ松との距離が近いな。
子供の頃じゃれ合ったりするうちに距離が近くなることはあったが、大人になってからはそういうこともあまりなかった。
久しぶりに超至近距離にいるカラ松は何故だか耳まで真っ赤になっている。
どうしたんだ?と思うと同時に、またふと気付く。
「ひっ!?」
「カラ松、何か良い匂いすんな」
くんくんっとカラ松の首筋で鼻をひくつかせる。
何度か松野家の風呂を借りたことがあるが、この家のシャンプーはこんな匂いじゃなかったはずだ。
香水でもなさそうだし・・・あぁそうか、変な方向にだが一応はお洒落さんなカラ松だし、風呂上りに何か付けているのかもしれない。
「あっ、だ、駄目だ名前、こんな場所で・・・」
新しい発見に何となく満足していた俺は突然の意味不明な発言に首を傾げた。
「場所?」
「あ、いや・・・こっちの話だ」
びくっと震えたカラ松の顔はやっぱり真っ赤だ。どうした。
「カラ松はたまによくわからないことを言うな」
「わ、悪い・・・」
「いや。それもカラ松の個性だろう。俺がわかるように努力すれば良いだけの話だ」
「・・・・・・」
すっとカラ松が俺の上から退いた。
まぁ退いてくれた方が漫画も読みやすいし、と漫画を拾いあげて読みかけのページを開く。
「・・・ん?どうしたカラ松?」
そんなところで何前屈みになってるんだ?
「・・・ちょっと、トイレ」
「本当に唐突なヤツだなぁ」
よたよたとトイレへと向かったカラ松は、その後なかなか帰ってはこなかった。
不意打ちは止めて!
「たっだいまー、あれ?名前一人?」
「さっきまでカラ松がいたんだが、トイレに籠ったきり出て来なくなったんだ。あとおそ松、脱いだ服をそのまま置いておくのは感心しないぞ」
「お前は俺のかーちゃんかよ。・・・あ、カラ松からかってこよ」
おそ松は何故だかニヤニヤしながらトイレへと歩いて行った。
・・・トイレが長いことをからかいに行くのか?