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※宗教松ネタ



陽光で煌めくステンドグラス。

荘厳な雰囲気を漂わせる十字架。


神聖で清らかな空気が流れる教会で、その神父は祈りを捧げていた。





「やっほー、元気してるぅ?カラ松神父さまぁー」





空気を打ち破る勢いで開かれる扉。カラ松と呼ばれた神父はため息とともに祈りを止める。


「・・・また来たのか」

「来ちゃった♥」


「そういう台詞はうら若き乙女に言って欲しいものだな・・・」

「男じゃ嫌ってかー!何だったら女に化けて神父を誑かしてやっても良いんだけどぉ?」


けたけた笑いながらずかずかと教会の床を踏みしめカラ松へと近づいて来る若い風貌の男。

その男の背には、人であれば生えているはずのない『羽』が生えていた。


それが純白の羽ならば男は天使だったかもしれない。

けれども男が持つ羽は黒。まるで蝙蝠を想わせる、黒く艶やかな羽が男の背には生えていた。





「悪魔のお前が言うと、冗談に聞こえないぞ名前」

「だって冗談じゃないしー?」


名前と呼ばれたその男の言葉に「勘弁してくれ」と苦笑を浮かべるカラ松。名前は「冗談だよ」と笑った。









名前とカラ松の出会いはそう昔ではない。

カラ松が神に祈りを捧げている最中、名前は今のように突然教会へとやってきた。


だが今のように元気な様子ではなく、体中に傷を負い、ふらふらと危なっかしい足取りでカラ松の前に現れた。

背中にある羽と人ならざるその気配ですぐに悪魔であることは理解した。


弱っていることは明白で、あまり力の強くないカラ松でも容易に祓うことが出来ただろう。しかしカラ松はそれをしなかった。

何故ならこの神父、馬鹿みたいな程『良い人』だったからだ。


あろうことか悪魔である名前に駆け寄り「大丈夫か!すぐに手当てをしてやるからな!」と声を上げたカラ松を、他の神父が見たらどう思うだろうか。確実に説教どころでは済まされないだろう。

カラ松に手当てをされた名前は、心底驚いたようにカラ松を眺め、それから大きな声で笑った。



正直な話、悪魔である身に人間用の治療は意味を持たず、そもそも清らかな教会にいる時点で傷は悪化していた。

それでも大声で笑えたのは、カラ松の行動が意味不明過ぎて面白かったから。


大笑いしながら「神父サマのお名前はー?」なんて尋ねる悪魔にあっさり「カラ松だ」とキメ顔で返事をする様に、名前は更に大笑い。

大笑いしたせいで傷も開きまくりでついでにむせたが、名前は心底楽しそうに「僕は名前。アリガト、神父さまぁ」と言って教会から消えた。



そして翌日「やっほー、カラ松神父さまぁ♥」と普通に教会にやってくるのだから、流石のカラ松も「えっ」と声を上げてしまったのは仕方ない。









「カラ松神父ぅー、祈るならそんなのより僕にしなぁーい?サービスしちゃうよ?」

「生憎、悪魔の誘いに乗る気はないんだ」

「ケチぃー」


教会に侵入してきた悪魔を祓うどころかお茶まで出して持て成す癖に、そういうところはしっかりしている。

名前はカラ松が出した紅茶を飲んで「うまー」と上機嫌に笑った。



「クッキーもあるぞ」

「チョコチップ?」

「あぁ、お前が好きだと言っていたからな。今回はチョコチップを多目に焼いた」

「マジですかぁー!カラ松神父さまさまぁー」


クッキーをバリムシャァ!と頬張る名前を何処か微笑ましそうに見ているカラ松。カラ松の中で名前は早々手のかかる子供の様な存在なのかもしれない。子供と言っても子供なのは態度だけで、身体はカラ松よりデカイが。



「そういえば」

名前の紅茶のお代わりを淹れながら、カラ松はふと思い出したように声を上げる。


「最近この辺りは凄く平和なんだ。前まではしょっちゅうこの辺りに悪魔が出没していたのになぁ」

「ふーん、そりゃ良かったねぇ。カラ松神父、これでニート生活エンジョイできんじゃーん?」


「・・・神父はニートじゃないぞ」

「仕事なければニートと一緒じゃん。あ、クッキーお代わり」

「もう食べ終わったのか!?・・・仕事が無いのは本当だが、平和なのは良いことだ」


カラ松がふふっと何処か嬉しそうに笑えば、名前は欠伸をしながらも「良かったねー」と言う。





「後は僕がいなくなれば、この村には悪魔がいなくなるってわけだぁ」

「べ、別にお前に消えて欲しいからこんな話をしたわけじゃ・・・」


はっとして慌て出すカラ松に名前は「分かってる分かってる」と悪戯っぽく笑った。カラ松がこういう反応をするとわかっていて言ったのだろう。

しかしカラ松はそれに気づかず「良かった」とほっと息を吐いた。




「でも油断は大敵だよぉ?カラ松神父は神父の癖にへっぽこだから、悪魔に付け込まれないように気を付けないと」

「悪魔に心配されるなんてな」

「僕、カラ松神父サマには大サービスしちゃうよぉ♥」


だからクッキーもっと頂戴?とおねだりする名前にカラ松はつい笑ってしまう。




「悪魔がみんな、名前みたいに親しみやすくて楽しい奴等なら、わざわざ祓わなくても良いのになぁ」

「そういう風を装って、付け込もうとしてるのかもしれないでしょー?ホント、気を付けてよねぇ、カラ松神父ぅ」


「意外に心配性なんだな」

「カラ松神父は優しくって、すーぐ付け込まれちゃいそうだから」

差し出されたクッキーのお代わりを貪りながら、名前はにたりと笑った。




「じゃぁ、こんな風に仲良くなった悪魔が名前で良かったな」

「・・・わぁ、付け込んじゃおうかなぁ、僕」


「止めてくれ。名前に裏切られたら本気で傷つく」

へにゃりと眉を下げるカラ松に、名前は「冗談だよー」と軽い声を上げた。




口いっぱいに詰め込んだクッキーを紅茶で流せば、あれだけ沢山あったクッキーはもう無い。

紅茶もクッキーも全て名前が食べつくし、食べつくした名前は「あー、満足満足」と軽く腹を叩いて小さなゲップをする。


「口の周り、食べかす塗れだぞ」

「拭いてよぉ、神父さまぁ」

「甘えた声出すな」

そう言いつつも口の周りをハンカチで拭ってくれるカラ松。



「それにしても悪魔は凄いな」

「何がぁ?」

「頬、最初あった時は凄い傷跡があっただろう。手も、変な方向に折れてた。でも今じゃ、何も残ってない」


先程も記述したが、名前とカラ松が出会いはそう昔ではない。

だが、名前の傷はその痕跡さえ残ってはいなかった。



「人間とは身体の造りが違うからねぇ」

軽く言う名前にカラ松は「凄いんだなぁ」と素直に感心そうな声を上げる。



「そういえばあの日、教会には神父がいるのに、何で教会に逃げ込んで来たんだ?」

カラ松の問いかけに名前はぱちぱちと目を瞬かせた。

まるで「何言ってんだコイツ」とでも言いたそうな顔だ。


「逃げ込んだんじゃないよ」

「えっ?」





「どうせ最期なら、綺麗な場所で死にたかったんだ」





まさかの言葉にカラ松は言葉を失う。


それから少しの沈黙が流れ、漸く口を開いたカラ松は「悪魔も、綺麗だと思うものは同じなんだな」と驚いたように言った。

あ、驚くとこそこなんだね。と名前は噴き出す。




「美的センスはカラ松神父よりはあるつもりだけどねぇー」

「何だと?」


「私服のカラ松神父、見るに堪えなかったよー」

「そんな馬鹿な・・・」

がくりと肩を落とすカラ松の様子が面白くて、名前は腹を抱えて笑った。




「名前は笑い上戸だな」

「カラ松神父サマが僕を笑わせて窒息死させようとするからだよぉ」


「そ、そんなつもりは・・・!」

「あはははっ!ぅっ、ごほっ、げほぉッ!」

「だ、大丈夫か!?苦しくないか!?」


オロオロしながら「落ち着け落ち着け!」と背中を擦るカラ松に更に笑う名前の声が教会へと響き渡った。








神父サマと悪魔サン








じゃぁ今日はバイバイと教会の外へと出る名前に、カラ松は「またな」と手を振った。

また来たのかと言うわりには、カラ松も次を望んでいるのだろうことはわかりきっている。


「神父サマはお優しいよねぇー」

悪魔にまで慈悲をお与えになっちゃうなんて、と名前は呟く。

「だから目が離せないんだけどねぇ?」

名前の手には、教会の外に漂っていた悪魔がぐちゃりと捻り潰されている。



最近悪魔が減った?

そんなわけがない。減るどころか、最近じゃ増えてさえいる。この村の隣なんて、誰かが悪魔と契約して呪いを放ったせいで、疫病が流行り始めている。



そもそもな話・・・普通の悪魔なら、それも傷つき弱っている悪魔なら、教会に入れるわけがない。

入れたとしても、入った瞬間にその神聖な空気に溶けて消えてしまうだろう。

ならば名前は『何』なのか。



「カラ松神父は駄目だよー?あれは、僕のだから」

カラ松のように清く優しい、美しい魂を持つ神父は悪魔に狙われやすい。

だから今日も、名前は同胞たちを何食わぬ顔で捻り潰すのだ。





まぁ、カラ松は知らぬ話だが。



あとがき

悪魔主と神父なカラ松でした。
神父カラ松は最強でもへっぽこでも美味しい。

カラ松は悪魔主の世話を焼いてあげてるつもりだけど、実際は悪魔主が世話してあげてる話。
カラ松専用の悪魔セコム(最強)。



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