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「たっだいまぁ」

間延びした少し気だるげな声が玄関からして、俺は「おかえり」と声を上げた。



「疲れたー」

「お疲れ、リトルブラザー。他の兄弟たちは皆出かけているぞ」


玄関から居間へ直行してきたらしい歳の離れたまだ高校生の弟は、その手にあった鞄をぽいっと放り投げ「ふーん」と気の無い返事をする。


運動部で心身ともに疲れているのか、他の兄弟を気にする余裕なんかないらしい。いや、この末っ子は普段から他の兄弟に対する興味関心が薄い。そんな気がするのは俺だけだろうか。

・・・まぁ、六人の兄が揃いも揃ってクズニートだと尊敬する気にもならないか。




「あーあ、汗掻いた。けど風呂めんどー」

「沸かして来ようか」


「入る気分じゃなーい。後でー」


のっそのっそとこっちに近づいて来る名前がすとんっと腰かけたのは俺の真横。

こてんっと俺の肩に頭を載せた名前に俺の身体はあからさまにビクリッと震えた。




「兄さん揺らさないで」

「す、すまない」

動揺する俺なんか無視してトド松のように名前はスマホを弄り始める。


興味関心が薄いとは思っているが、全く興味が無いわけではないのか時折こういったスキンシップは取る。


それは決まって二人きりの時で、きっと名前は一対一でないとこういったことが出来ないタイプの人間なのだろう。他の兄弟たちとも、二人きりになればこういったことをしているのかもしれないと思うと、少し胸がチクリとする。

何故胸がチクリとするのかと聞かれれば、それは俺が異常者である他ならない。



六男からサイコパスなどと言われたことがあるが、その通りかもしれない。

現に俺は、この隣にいる末の弟を・・・弟としてとは別に、愛してしまっているのだから。


何時からだろう。気付けば俺は名前のことが好きになっていた。

六つ子とは全くの別物で、血は同じだが顔は少ししか似てなくて、兄弟たちの中で唯一何もしなくても『個』が確立していて、兄弟たちからは何だかんだで無条件に『特別』な扱いをされている、そんな末の弟が・・・俺は好きになっていた。


最初は羨望だったのかもしれない。俺とは全く違う扱いを受ける名前を目で追っていた。




名前の方はどうだろうか。

そもそも普段から兄弟に興味が無い様子の名前は、平日も休日も部活で忙しく、たまの休みも高校の友達と遊びに行ってしまう。兄弟の誰かが遊びに誘っても素っ気なく「無理」とばかり返す。そんな弟。


六つ子は俺があいつで俺達が俺。でも名前は違う。たった一人の特別。

兄弟が何より大事な俺とは違い、名前はきっと外の世界を大事にしている。


いや、別に名前が家族に対して無関心な薄情者だと言いたいわけではない。断じて。

ただ、もう少し家族を・・・欲を言うなら俺を見て欲しい。





「あ。アイツもうSNS更新してる・・・ははっ、すっげぇくだらねーこと書き込んでるじゃん」

スマホの画面を見ながら楽しそうに笑っている名前に少しだけそわそわする。



もしかすると今、名前の機嫌が良いのではないだろうか。

一松程ではないにしろ、下手に軽い気持ちで名前に関われば碌なことはない。


一松が厳しいのは俺に対してだけだが、名前は兄弟全員に厳しい。見事に胸にぐっさりくる言葉と視線を送ってくるのだから、兄弟たちは何気に名前と話す時は慎重だ。

テスト期間なんてものが到来した日には、松野家は緊張した空気に包まれる。あぁ、この末っ子の影響力は本当に大きい。


それが今はどうだ。部活帰りで疲れているはずなのに、イライラしている様子はない。しかもSNSで何か面白い書き込みがあったのか普段気だるげなその顔に笑みが浮かんでる。


チャンスだ。

此処は一つ、良い感じの言葉と共に愛する弟との会話を・・・





「ねぇ兄さん、ちょっとコレ見てよ」

「えっ、なん――」



何だ、と返事をしながら横を見ようとした。だがそれも中途半端に止まる。


近い。近過ぎる。

一瞬、唇と唇が触れ合っても可笑しくない距離になりつい目を見開く。


こっちを見ていた名前は危うく俺と唇が触れ合いそうになった事など全く気にした様子もなく「ほら」と画面を見せてきた。

見せられたのだが、全然頭に入ってこない。

名前のことばかりが気になってしまう。


あぁ、微かに汗のにおいがする。

そのにおいが頭をくらくらとさせた。まるで自分が変態のようで、少し自己嫌悪。




「カラ松兄さん、ちゃんと見てる?」

「み、見てる」


「見てるの僕の顔なんだけど」

「す、すまないっ」

じとっとした目を向けられる。折角さっきまで名前の機嫌が良かったのに!





「何時も思ってたんだけどさぁ」

「あ、あぁ、何だリトルブラザー」



「カラ松兄さんさ、普段から僕のこと見過ぎ。穴開きそうなんだけど」



「えっ!?」

ば、バレてただと!?


「特に、鏡見てるフリして鏡越しに僕を見るの止めてくれる?怖いんだけど」

「す、まない・・・」

あぁっ、なんて容赦のない言葉なんだ。胸にぐさぐさ刺さる。



「こっそり見られるの嫌いだから、見るなら堂々と見てくんない?」

「あぁ、わか・・・は?」


「後、さっきからそわそわしてるみたいだけど、言いたいことがあるならさっさと言ってくれない?待ってるこっちの身にもなって欲しいんだけど」

「す、すまない?」


「後さぁ、折角僕が休みの日、折角僕が他のニート共の誘いを断ってやってんのに、カラ松兄さんだけ誘わないとかどういうこと?自分も断られるかもしれないから最初から誘わないとかマジふざけてるんだけど」



「えっと・・・」

言葉が出ない。

要するに何だ?この末の弟は、俺の気持ちなんて全部お見通しで・・・




「兄さんが僕の事好きなの知ってるからさ、さっさと行動に起こしてくんない?そしたらこっちも反応起こせるんだからさぁ」




今の俺はどんな顔をしているだろう。

動悸は激しいし顔は熱いし目の前が涙で歪むし、きっと碌な顔してないだろう。


けれど名前はそんな俺を笑い飛ばすことなく、何も言わずじっと俺の言葉を待っていた。








最強☆末っ子様







「・・・こ、今度、一緒に遊びに行きませんか」

「来週の日曜なら空いてるから、準備しといてよねぇ」


にたぁっと何処か悪い笑みを浮かべる当たり、俺達はやっぱり兄弟なのだろう。



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