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※エスパーニャンコネタ



松野家の玄関が音を立てて開く。

その音に反応してか、猫が玄関の方へと駆けて行った。


玄関には突然飛び出してきた猫に驚いた顔をした名前の姿。





「こんにちはー。あ、可愛い猫ちゃんだね」

『猫より一松くん何処だろ』


「ん?あれ?この猫、今喋った?」

『一松くんに会いたいよー、一松くん何処ー?』


「やっぱり喋ってるよ!ねぇ、この猫何!?」

『早く一松くんに会わなきゃ死んじゃいそう。一松くんに会いたい、一松くんとお喋りしたい』


ぺらぺら喋り出す猫に名前は目を丸くして固まる。





「・・・名前」

そんな名前の元へ、のっそりとした動きで一松がやって来た。

一松の姿をその視界にとらえた途端に嬉しそうな表情を浮かべる名前。



「あ!一松くん!」

『あ!一松くん!』


「あのね一松くん!この猫可笑しいんだ!何かすっごい喋ってるんだよ!」

『やっと一松くんに会えた!今日も一松くん可愛いなぁ!』


「わっ!猫が僕と同じこと考えてる!」

『この猫も一松くんのこと好きなの?駄目駄目!一松くんは僕のなんだから!』



猫と一松を交互に見る名前は、まさか猫が自分の心の声を口にしているなどとは夢にも思わない。

驚きを隠しきれない名前とは対照的に、一松は静かに静かにその場に立っていた。





「一松くん、この猫は一体・・・」

『一松くん猫好きだし、喋れる猫とはズル過ぎる・・・』


名前の問いかけに一松は答えず、くるっと背を向けた。

え、ちょっと待ってよ!と声を上げる名前に軽く手招きをして無言で中へ入るよう促すと、名前は首を傾げながらも家に上がる。



どうやら家には一松以外いなかったらしい。静かな居間に通された名前は猫が一松の足元へ擦り寄るのを何処か羨ましそうな顔で見ていた。


一松は擦り寄ってきた猫を抱上げたままその場に腰かけると、そっと猫の口を塞いでその猫について名前に告げる。

驚いた表情で一松の説明を聞いていた名前も、猫が発した言葉が紛れも無く自分の本心だと自覚すると案外すんなりとその事実を受け入れた。








「そうだったんだぁ・・・人の心が読める猫なんだねぇ」

『じゃあ僕の心の声駄々漏れなんだぁ』


「流石は一松くんの猫だね!」

『ズルい!一松くんの心の中見れちゃうなんてズル過ぎる!僕だって一松くんの心の中見たいのに!』


「・・・えっとぉ」

『いいなぁ、猫は。一松くんとずっと一緒にいれるなんてズルいよ』



説明が終った途端に一松が猫の口から手を退かしてしまったせいで、猫は先程のようにぺらぺらと喋り出す。

わざわざ一松の方へ身を乗り出してまで猫の口を塞ぐことは出来ず、猫が自分の本心をぺらぺら喋る姿をただ見ていることしか出来ない名前は、みるみる視線を漂わせ始めた。


一松が猫が好きなことは名前も知っているし、建前上は名前も猫好きだと一松に告げている。

だが実際、特別猫が好きと言う訳ではなく、正直なところ一松を独占する猫は時に苦手でもあった。





「ご、ごめんなさい・・・」

『どうしよう、一松くんに嫌われちゃう』


名前がしょんぼりとし始めたからか、猫が慰める様にニャーと鳴く。

誰のせいだと思っているんだと少し恨めしそうに猫を見る名前に、猫が一松の腕からするんっと抜け出し名前の方へと近づく。


ごめんねと謝る様に名前の手を舐める猫に、名前はへにゃりと眉を下げる。


猫は自分の本心を口にしただけ。それを怒るのはお門違いかもしれない。

猫相手に怒ってしまった自分自身が情けなく思ったのか、名前は更にしょんぼりとした。


そこで漸く、一松が口を開く。


「勝手に落ち込むなよ、鬱陶しい」

「ご、ごめんね、一松く――」





『名前がそこまで俺の事想っててくれたなんて、凄く嬉しい』





しまった!と一松が目を見開く。

まるでそれを謀ったかのように名前の背中へ隠れてしまった猫の口を塞ぐことは叶わない。



「あっ、こら!俺は別に、こんな鬱陶しいヤツのことなんて・・・」

『名前が来てくれて嬉しい。本当は毎日でも会いたい。でもそんなこと言ったら、鬱陶しがられちゃうかも』


「鬱陶しくなんかないよ!僕も、一松くんに毎日会いたい!」

『鬱陶しくなんかないよ!僕も、一松くんに毎日会いたい!』



先程までのしょんぼりした表情は吹き飛んで、ぱっと明るくなった顔で名前は言う。

途端にぶわりと一松の顔が赤くなる。




「僕、一松くんのこと大好きだから、毎日会いたいんだ!」

『一松くん大好き!一松くんすっごく大好き!ずっと一緒にいたい!』


「う、うるさい・・・」

『名前が僕のこと好きって!嬉しい!』



何を言っても無駄だと気付いたのか、一松は顔を手で覆って口を閉じた。

手で隠れ切っていない部分はやっぱり真っ赤で、名前の顔に笑みが浮かぶ。





「一松くん」

『大好き』


「・・・うっさい」

『僕も』




堪らず名前は一松の方へと手を伸ばし、その身体を抱き締めた。


止めろ!離せ!と声を上げる名前だったが、猫が発した言葉はその逆で・・・

一松は諦めたように名前に抱き締めらていた。







ありがとうねこちゃん








翌日、名前が一松の猫に高そうなお刺身を与えている姿が、他の松たちに見られていた。



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