「名前が俺のことを愛している証拠が欲しい」
そんなことを言われて、僕はどうすれば良いんだろう。
普段から口にする格好付けた痛い発言が目立つけれど、それすら可愛いと思ってしまう程に大事な大事な僕の恋人。
どれぐらい愛してるか聞かれればそれこそ言葉で言い表せないくらいだし、証拠が出せるなら出してあげたい。
けれども愛情には形がない。精一杯口で伝えても、それは証拠にはならない。
どうしたものかと頭を捻っていると、カラ松が不安そうな顔をした。
カラ松が僕の愛を疑っているわけではないのは知っている。けれども不安だと感じていることも知っている。
自慢の凛々しい眉毛がハの字に下がってしまっているし、目は何となく潤んでいる。
下手なことをしたら泣いてしまいそうなカラ松。本当に、どうしたものか。
「・・・悪い。突然、こんなこと言って」
「諦めたみたいな顔してそんなこと言わないで。流石に傷つく」
何時まで経っても証拠を提出しない僕に諦めを感じ始めたのか、泣きそうな顔で笑うカラ松に胸が締め付けられる。
たぶん今の僕の顔は、カラ松と同じような表情を浮かべているだろう。
眉も下がって目は軽く潤んで、泣いてしまいそうになっているだろう。
カラ松はそんな僕を見て申し訳なさそうにする。僕はそんなカラ松の顔を見て申し訳なさそうにする。
何だか嫌な連鎖反応が起こっていることを感じ、僕はカラ松の手を取って、口を開く。
「カラ松のこと、好きだし愛してる。けど、言葉じゃ全部は伝わらないし、態度で示そうとしてもそれでも伝わらない部分があるし、正直僕はどうしたら良いかわからない」
「・・・悪い」
「僕の方こそ悪いと思ってる。たぶん、証拠なんていくら出そうとしたって出てこないと思うし・・・けど、僕がカラ松のこと愛してるのは本当なんだ」
「・・・あぁ、わかってる。わかってるけど、不安なんだ」
普段は自信満々なフリをしているけれど、本当は誰よりも自分に自信がなくて弱いことを僕は知っている。
だから僕はカラ松が弱っている時は出来るだけ傍にいてあげたかった。
今だってカラ松は弱っていて、僕に助けを求めている。
けれども僕はそんなカラ松を助ける正確な術を知らない。
「ごめんね、カラ松」
「・・・いいんだ」
小さく首を振るカラ松がぎゅっと僕の手を握り返す。
その手を僕が更に握り返せば、カラ松はやっと少しだけ笑ってくれた。
「今日は元気が出ないから、二人でゆっくりしよう」
握った手を引いてソファへ行く。
すとんっと腰かければつられてカラ松も腰かけた。
隣にいるカラ松の手を放し、ぎゅっと抱き付く。
カラ松の温かな体温を感じて、少しほっとする。
どうやら僕は、僕が思っている以上にカラ松に証拠を提出出来なかったことを落ち込んでいたらしい。
「名前?」
「カラ松が意地悪なこと言うから、落ち込んでます」
「わ、悪かった」
「カラ松は僕が回復するまで僕にされるがままになる責任があります」
「えっ」
困惑した声を上げるカラ松のほっぺにチューッとキスを一つして「愛してる」と耳元で囁く。
一瞬にして真っ赤になってしまったカラ松の頬にもう一回キスをして、今度は額に、鼻先に、唇に・・・
散々キスをしてからまた「愛してる」と言って、ぎゅうぎゅうと抱き締める。
ガッチガチに固まってしまったカラ松の膝の上にどさっと頭を落とし、膝枕。
見上げたカラ松は真っ赤な顔のまま「これが責任か?」なんて聞いてくる。
「カラ松は、僕の気が済むまで僕の愛を受け入れてね」
「何時気が済むんだ?」
「たぶん一生無いから、今日から僕はカラ松に甘えまくる。よろしく、カラ松」
カラ松のこと愛してる。けれどどうせだったら愛されたい。
膝に頭を乗せたままぎゅっと腰に抱き付くと、カラ松がびくっと震えた。
どうして震えるのかと見上げれば、カラ松は真っ赤だった顔を更に真っ赤にさせて、小さく呟く。
「・・・可愛い」
カラ松の言葉に瞬きを一つ。
そしてその言葉を理解して顔がぶわりと熱くなる。
・・・うん。たぶん僕はこれからずっとカラ松に甘えきってしまうだろう。
シリアスと見せかけて
この甘えが、愛の証拠になってくれますように。