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僕がスタバァでバイトを始めてからしばらく。

新しいバイトの人がやってきた。


僕よりも少し年上で、僕よりも幾らか身長が高い男の人。顔立ちも結構悪くない彼は休憩時間になると他のバイトの女の子達に囲まれていた。

それが羨ましくて堪らなかったけど何とか我慢していると、ふと女の子たちの感心したような声が聞こえた。

随分盛り上がっているらしいその会話は僕の方にまで届く。





「名前くんKO生なんだぁ!」

・・・えっ?





「うん、まぁ」


え?え?えぇ!?

ぴしっと身体が固まったような感覚。


え?はぁ?KO?あの人、KOなの!?

内心大分焦っている僕の方を女の子たちが見る。その顔には笑みが浮かんでいて、嫌な予感がビンビン。




「トッティもKOだったよね?もしかして知り合い?」

「えっ」




ほら!やっぱり僕に話をふってきた!

そりゃそうだよね!僕、一応KOっていう設定だしね!!!


・・・うん、ヤバイ。

まさか本物のKO生が来るなんて思わなかった。予想出来る訳ないじゃん。


駄目だ、僕がKOだって嘘吐いてるのがバレる。

バレたらもうお仕舞だ。

どうしよう、どうしよう、どうし――






「あぁ、たまにすれ違うぐらいだけど知ってるよ。まさかバイト先で会うなんてって驚いてたんだ」

・・・へ?






「えっ、あ・・・そうそう!僕も彼とはたまにすれ違うぐらいで、あまり知らなくって・・・」

どういうこと?

もしかして誰かと間違えて・・・


いや、これはチャンスだ。今は彼に話を合わせよう。




僕と彼の言葉に女の子たちは「そうだったんだー」と笑顔で声を上げる。・・・良かった、怪しまれている様子は皆無だ。

何とかその場は凌ぎ、女の子たちは「私達休憩終わりだから、先行くね」と一足先に休憩室から出て行った。

そうすると必然的に彼、名前さんと二人きりになる。


僕なんか気にせず携帯を弄っている名前さんは無言で、それを見つめる僕も無言。き、気まずい・・・






「あ、あの、名前さん・・・」

意を決して声をかけると、視線を携帯に向けたまま「んー?」という返事が返ってくる。


僕はそんな彼にそっと近づく。

視界の端に僕を捉えた彼は携帯から顔を上げた。




「その、なんて言うか・・・有難う御座いました」

「何が?」


「僕の嘘に、会わせてくれて」

「嘘?あぁ、KO大のこと?」

「は、はい」


あぁ、やっぱり人違いとかじゃなくて僕に話を合わせてくれていたらしい。





「あ、あの・・・出来ればなんですけど、今後も僕がKOじゃないことは内密でお願いしたいっていうか・・・」

現状、立場が上なのは確実に彼だ。

彼に気に食わないと判断されれば、僕の命は危ない。


僕がぺこぺこと頭を下げると、名前さんは目をぱちぱちと瞬かせ、次の瞬間にはブッと噴き出した。

そして口元を手の甲で押さえつけ、噛み殺したような小さな笑い声を上げる。声は抑えているが、肩はがくがくと震えているし目尻には涙が溜まっている。・・・笑い過ぎだ。





「そんなに心配しなくたって、言いふらしなんかしないって」

「ほ、本当ですか?あのっ、今度何かお礼を・・・」


この際、何かお願いを一つ聞いて、貸し借り無しの状態に持ち込みたい。変に恩を売られた状態にしておくと厄介だ。

僕の内心を知ってか知らずか、彼はまたブフッと噴き出した。今の台詞の何処に面白さを感じたのだろう。





一頻り笑い続けたかれは「あー、久しぶりにこんなに笑った」と何処か満足気に言った。

そして僕の方を見て、にこりと笑って見せる。



「気にすんな。俺も昔、同じような事したから」



「同じようなこと?」

つい聞き返せば、彼は楽しそうに頷いた。


「俺も昔、バイト先で嘘吐いてたことあるんだ。自分はKOだって。あ、もちろん今はホントにKOだけど」

「えっ?」


「本当は浪人生だったのに、KOだって嘘吐いててさ・・・けどある日、嘘がバレそうになって、そこから必死になって勉強して、何とかその翌年には合格出来た」

「・・・凄い」

「まぁ、合格する前に嘘がバレて、散々な思いをした記憶はあるけど」




その時の事を思い出しているのか少しだけ苦い表情をする名前さん。

嘘がバレそうになったからとか、簡単に言うけどそれはきっととても大変なことだったんだろう。


純粋に凄いと思うし、尊敬出来る。

・・・恩を売られると厄介だとか考えていた自分がまさにゲスだと気付かされた。気まずい。





「気持ちわかるからさ、絶対言わない。必要なら、話を合わせてやるから」

「あ、有難う御座います」


話せば話す程にこの人滅茶苦茶良い人だな、と思う。


ぺこっと頭を下げた僕の頭にぽんっと手が置かれる。

僕よりも大きなその手は僕の頭をぐりぐりと撫で、手の持ち主である名前さんは優しげな表情で笑った。





「誰でもさ、自分をよく見せたい時ってあるし、俺はそういう嘘もアリだと思うよ。別に、誰かを傷つける様な嘘でもない訳だし」

「名前さん・・・」


・・・やばい、どうしよう。




「だからこれから宜しくな、トッティ」

どうしよう、これほんとやばい。



「は、はいっ!あの・・・名前さん、出来れば、その・・・」

「んー?」


「トッティじゃなくって、トド松って呼んでください。名前さんの前だと、その・・・嘘、吐かなくても良いかなって・・・」

「・・・わかった。よろしく、トド松」




女の子落とす為の嘘のせいで、僕の方が落とされそうなんだけど。








嘘吐きさんと嘘吐きくん







(五人の悪魔たちの脅威を、トド松はまだ知らない)



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