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俺の親戚は、シガンシナ区に住んでいた。


カイトは頭が良くて、頭が良いだけじゃなくて強くもあって・・・

幼いながらに、俺はアイツに憧れてた。

何時かアイツみたいになりたいな、なんて思ってた。

けれどある日・・・





――両足を失ったカイトが、俺の家に届けられた。





最初こそ、ソイツが誰だかわからなかった。

だって、俺の記憶の中にあったカイトは、太陽の下を走り回る、まるで向日葵の様に明るくて頼もしい兄貴分だったから。


けれど目の前のソイツはそれとは真逆すぎた。

俺の両親は俺に「今日から一緒に住むのよ・・・」とだけ告げて、車椅子に乗ったカイトを運んだ。

意味が分からなかった。


何で両足がないんだろう。

去年まで、一緒に走り回っていたのに。

カイトは足が速いから、今年こそは追いついてやろうと思っていたのに。なのに・・・




こんなのって、あんまりじゃないか?




「カイト・・・」

幼いあの日の俺は、車椅子の上でまるで人形のように動かないカイトに話しかけた。


巨人がシガンシナ区に押し寄せてきたという話は聞いていたけど、正直巨人なんて見た事も無い俺には、カイトの気持ちなんてわからなかったんだ。

無知な俺は、カイトに酷い質問をした。




「――巨人って、どんな風だった?」



「・・・・・・」

カイトはゆっくりと顔を上げて、俺を見た。


無表情が、次第に恐怖に引き攣って行く。

ガタガタガタッと震え始め、最後には・・・



「あ゛あぁぁぁァあアアぁぁぁあ゛ああぁぁぁぁああああアアアアアあァああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ひッ!?」


頭をぐしゃぐしゃと掻き乱しながら叫び出した。

俺の両親が慌てて飛んできて、俺を部屋から追い出して・・・



しばらくして声が止んだと思ってこそっと除けば・・・カイトは再び人形のようになっていた。

両親からは「カイトにあの日のことは聞かないであげて」と言われたが、俺だってもう聞く気にはなれなかった。


両足はきっと、巨人に食われたのだろう。

カイトの両親がいなかったから、カイトの両親も巨人に食われたのだろう。

幼いながらにそう理解してしまった俺は、カイトが・・・怖いと思った。




だってそうだろう。

その時の俺の記憶の中には、まだあの明るくて優しくて頼もしい兄貴分のカイトが生きていたのだから。

目の前の人形のような動かないカイトなんて知らなかったんだ。


食事の時も、カイトはスープを一口二口飲んだだけで吐き出してしまう。

食べる、という行為が嫌なのだろう。


時には両親が泣きながら無理やり食べさしていたのを覚えてる。

けれど時がたつと、カイトにも変化が訪れた。






「・・・ジャン」


「!・・・おはよう、カイト」

カイトがちょっとずつ、言葉を取り戻し始めた。食事も、少しずつとる様になってくれた。


それは紛れもなく、両親の努力の賜物だったのだろうけど・・・

何故かカイトは、真っ先に俺の名を呼んでくれた。

それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。


俺はにやける顔を抑えきれずに、自分の名前を呼んでくれるカイトに駆け寄った。




「カイトっ!あのさあのさ、俺とその・・・外、行かないか?」


「そ、と・・・」

「あぁ!」


「だめ、だ・・・ジャン。外には・・・――巨人がいる」

ガタガタッと震えるカイトの肩を慌てて掴む。



「いない!外に巨人なんかいないんだ!だから、前みたいに・・・」

「いるんだよ!!!!!外には巨人がいるんだ!!!!!!」

あまりに大きな声にビクリッと肩を揺らしてしまった。




畜生・・・何でだよ。

何でカイトがこんな風にならなきゃいけないんだよ。


カイトは何も悪くねぇじゃんかよ。カイトはただの明るくて優しい、俺の・・・

俺の大事な・・・



「だったらッ・・・」

「・・・ジャン?」


「だったら、俺がカイトを誰より安全な場所に連れて行く!!!!!!」


そうだ。憲兵団に入ろう。


憲兵団に入れば、家族も内地に連れて行けるんだ。

そうすれば、カイトがもう怖がる必要はない。

もしかすると、前のように明るいカイトに戻ってくれるかもしれないんだ。





「カイト・・・」

ぎゅっと抱きつけば、カイトがビクッと肩を震わす。


それでも抱きつき続ければ、カイトが恐る恐ると言った風だけど、俺の背を撫ぜてくれた。

それが嬉しくてたまらなくて・・・



ついちょっと泣いた。

いや、嘘だ。結構泣いた。


それこそ、両親が慌ててやってくるぐらい、俺は大声で泣いた。

カイトはそんな俺を、泣きながら抱き締めてくれた。















「カイト・・・行って来る」


「ジャン・・・本当に行くのかい?」

「当たり前だ!お前を絶対、内地に連れてってやる!」


あの日から月日が経ち、俺は訓練兵になるために家を出ることになった。

車椅子のカイトは、最初の頃よりずっと健康的になって、表情も少しは明るくなった。


身体が動かせない分、カイトは多くを学び、人に聞いた話ではその若さでも王都で充分働けるだけの知識があるらしい。

しかも、あれだ・・・


ず、随分その・・・格好良くなっちまって、ちょっと顔を合わせるのが恥ずかしいっていうか・・・





「ジャン、おいで」

「お、おぅ」


まぁ、カイトに来いと言われればつい尻尾ふって近付いちまうけどな。

こっちに向かって両手を広げるカイトに素直に抱きつけば、背中や頭をぐりぐりと撫でられた。



「ジャン・・・お前の気持ちは嬉しいよ。だけど・・・後悔のないような選択をしなさい」

「?どういう意味だよ・・・」


「実際にやってみて、考え直すこともある、ということだ」

「ねぇよ!俺はお前を内地に連れて行くんだ!」

「ふっ・・・あぁ、そうだな」


期待してる。と言いながら俺の額にキスを一つしたカイトに、ブワッと顔が熱くなった。




「い、行って来る!」

「行ってらっしゃい」


カイトの見送りの言葉を聞きながら訓練兵になった俺は・・・







「・・・カイト、ごめん」

憲兵団にはならず、調査兵団になっていた。


カイトの言うとおりだった。

実際の現場を見れば、考えは変わる。

それを知ってて、カイトはあぁ言ったんだ。


俺がもしかしたら調査兵団になるかもしれないということも、想定していたのだろう。

あぁ、流石だな・・・なんて、つい苦笑してしまう。


どんだけ俺の事、わかっててくれてるんだろう。そう思うと、何だか酷く満足感を感じた。





カイトに調査兵団になったことを手紙で知らせた。

するとすぐに返事が返ってきて・・・




【ジャンの考えを尊重する。ジャンが安心して戻ってこられるように、俺も頑張るよ】




きっと、優しい表情をして書いてくれたのだろうということが容易に想像できた。

あぁ・・・





「・・・帰ってくるよ」

俺の帰り場所は、カイトの元しかないのだから。





君がための選択






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