薄い紙に記載されている名前の羅列。
「次の演習はアニと一緒か・・・」
二人一組の試合ペア。
教官がランダムに決めたペアに俺は笑みを浮かべた。
あまり表情の変化がなく、とっつきにくいと言われているアニ。
けれど俺はそんなアニが好きだ。
餓鬼のような淡い恋心だ。
好き合って、身体を重ねて、結婚したいとか、そういう考えは全くないとは言えないが、そうじゃない。
今は仏頂面のアニが満面の笑みを浮かべられるような未来がくれば良いのにと、そう願う愛。
アニからしてみれば迷惑な愛だろうから言わないけど。
俺は知ってる。アニは本当は優しい子だって知っている。
知ってる知ってる。
好きな子のことぐらい、知ってる。
「アニ、次の演習頑張ろうな」
「・・・・・・」
ちらりと視線を向けるだけで何も言わないアニ。
普通なら此処で少しは気分を悪くするけれど、俺は別にそうは思わない。
アニがあえて人と関わろうとしていないことも知っているからだ。
試合内容は簡単。
相手から一本取ったら勝ち。
実に単純で、この時間は教官の目も少ないからサボる輩も多い。
アニもあまりやる気がないらしいが、やる気があったらあったでちょっと怖いな。アニは強いから。
「アニ。形だけでも試合しようか」
「・・・別に良いけど」
すっと構えるアニは綺麗だと思う。
・・・まぁ、ぼっこぼこにされるフラグも感じるけど。
「ぉっふ!」
案の定地に伏した俺を見下ろすアニに俺は苦笑する。
「アニは強いなぁー」
ゆっくりと身を起こして身体についた土を払いのけると、アニは小さくため息を吐いた。
「もう良い?私、もう休むけど・・・」
だるそうにしているアニに、俺は笑って頷こうとした。
「アニ!」
俺は慌ててアニの腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
その瞬間、アニの立っていた場所には試合で豪快に吹っ飛んできたコニーが倒れ込む。
「わぁあ!!!すみません〜!」
少し離れた場所でサシャが叫んでいるのを見ると、サシャが何かの拍子で吹っ飛ばしたのだろう。
起き上がったコニ―が「サシャ手前!横じゃなくて上に投げろよ!」と叫ぶ。・・・うん、試合じゃなくて遊んでいたようだ。
俺はふぅっと息を吐き、アニの無事に安心する。
「・・・ちょっと」
「ん?」
俺の目下から少し低い声。
俺がちらりと視線をずらせば・・・恐ろしい眼光が俺に向いていた。
「離してくんない?」
「ぁ、ごめん」
コニ―から守るために引き寄せたアニをそのまま抱き締めていたらしい。
アニにしてみれば良い迷惑だと気づき、俺は慌ててアニを離した。
「それに・・・別に、自分で避けれる」
「あぁ、ごめんなアニ」
アニのプライドを傷つけてしまっただろうかと心配する俺。
「・・・別に、怒ってるわけじゃない」
ふいっと顔を背けてすたすた歩いて行ってしまうアニに、俺は少し笑う。
なるほど、怒っているわけではないらしいな。
睨まれてしまったが、アニと少し触れ合えてよかったような気もする。
ちなみに、この時の演習はアニがエレンとライナーを吹っ飛ばして終わった。
俺も適当な相手と適当な試合をして終わったから、まぁ良い休憩時間になったと思う。
そのまま夕食の時間になり――
「・・・はい」
「え?」
アニが突然、スープの皿を差し出してくる。
一瞬意味がわからず、皿を受け取らずに見ていると、アニがむすっとした顔で俺を見てきた。
「・・・お腹すいてないの。処理しといて」
そう言うとすぐに顔を背けてしまうアニの手から、俺は慌てて皿を受け取る。
受け取ってから気づいた。
なるほど・・・
「アニ、有難う」
「・・・・・・」
無言で足を蹴られたけど、俺は笑ったままだった。
アニなりの、感謝の意だったのだろう。
その日のスープはやけに美味しかった。
ホントは優しい君