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「名前くんの恋人って、どんな人なの?」

クラスメイトの七瀬さんにそう問われ「んー」と少し考える。



そう言えば以前クラスでそういう話題になって、僕に恋人がいるということは皆知っているんだった。

特に女子はそういう話題に興味津々らしく、当然いろいろと聞かれたのだが、僕はのらりくらりとそれを交わし続けていた。


「どんな人って・・・んー、そんなこと言われてもなぁ」

「前に年上だって言ってたでしょ?やっぱり、大人な女性なのかなぁーって」

そうそう、年上の恋人とだけ伝えてある。どんな人物かまでは教えていない。

でもそうだな、七瀬さんはそう悪い子じゃないし普段からお世話になってるし、少しぐらいは教えてあげても良いかな。別にどうしても隠しておきたいことでもないし。



「大人・・・まぁ、僕よりは大人だよ。ちょっとミステリアスで、僕には勿体ないぐらいな美人で、しかも器用なんだ」

「絶賛じゃない。良いなぁ、私もそういう大人になりたい」

その言葉に思わず「え?」と首をかしげる。


「止めた方が良いよ。人間、ちょっとぐらい欠点があった方が可愛いと思うし」

「えー?そうかな?」


「金田一くんもありのままの七瀬さんが好きだと思うし」

「ちょっ、な、何ではじめちゃんの名前が出てくるの!?」

「あれ?七瀬さんって金田一くんのこと好きだったよね?」

「そっ、そんなんじゃ・・・」

顔を真っ赤にしながら言っても全然否定になってない。

僕が笑顔で「応援してるよ」と言えば七瀬さんは真っ赤な顔のまま俯いて小さく「有難う」と言った。



そんな会話を七瀬さんとしたのが昼間。

一日の授業を終え、放課後まっすぐ家に帰るなり「おかえりなさい」と僕を出迎えてくれた恋人に「ただいまー」と返事をした。


疲れた、なんて言いながら靴を脱げば自然な動作で僕の恋人は僕の荷物を手にして「お茶でも用意しますね」と笑う。

もはや恋人というよりは奥さんみたいな貫禄がある。




「名前は、完璧な人は苦手ですか?」

「え?」

そんな恋人、高遠遙一さんが淹れてくれた紅茶をソファに座りながら飲んでいると、遙一さんは唐突にそう問いかけて来た。

思い出すのは七瀬さんの会話だけれど、そこには当然遙一さんはいなかったはずだ。


「あっ、遙一さん、また僕の荷物に仕掛けたでしょ」

何をと言えば、もちろん盗聴器の類だ。


遙一さんは逐一僕の様子が知りたいのか、たまに盗聴器や発信機の類を仕掛けてくる。特にそれで困ったことは無いから咎めたりはしないけど。

今回も僕が気付かないうちに仕掛けて、さっき僕から荷物を受け取った時に回収したんだろう。相変わらずの手並みの良さには感服する。



「どうなんですか?」

たぶんだけど、僕が七瀬さんに言った言葉を気にしているんだろう。何時も通りの余裕そうな笑みが少しだけ引き攣っているのに気付く。

「どうって・・・」

「はっきり言ってください」

盗聴器で僕と七瀬さんの会話を聞いて、遙一さんは不安になったんだろう。けれどその実、遙一さんが不安になることなんて何一つない。



「んー、あれ?遙一さんって完璧だっけ?むしろ遙一さんって、見た目とか才能とかの完璧さを全部相殺しちゃうぐらいの欠点持ってるじゃん」

「欠点?」

ぽかんとする遙一さん。この顔は貴重だ、今すぐ写メりたい。

もちろんそんなおふざけ遙一さんが許すわけないから、僕はにっこり笑いながら言ってやった。




「完全無欠の犯罪コーディネーターが、ただの男子高校生にお熱なんて、十分欠点ですって」




ぽかんとしていた遙一さんは少し黙ると「・・・それもそうですね」と笑った。

「あ、遙一さん、今日のご飯何?」

「貴方の好きなハンバーグですよ。デザートにゼリーもありますから」

「そっかそっか」


すっかり機嫌が直ったらしい遙一さんはハンバーグを一個おまけしてくれた。お腹いっぱい。





完璧な人の欠点





僕の両親の帰りが遅い日を全部調べ上げて何時の間にか不法侵入してるんだから、遙一さんは相当僕に入れ込んでる。


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