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「高遠!荷物持ったか?」

「持ったよ。まったく、名字は突発的なヤツだな・・・」


高遠が荷物を持ったことを確認するとまた高遠の腕を掴んで走り出す。

姫野先生の「気を付けてねー」という声に「先生ばいばーい」と手を振ると、腕を引かれるままに一緒に走る高遠から呆れたような視線を向けられた。





「本当に突発的なヤツなんだな・・・クラスの女子が知ったら、残念がるぞ」

「えっ、逆に俺ってどういうヤツって思われてるわけ?」


「サッカーしてる姿が格好良いとか、たまに見せる真剣な表情が良いとか、単純に顔が格好良いとか」

「それ全部見た目じゃん。ちょっと傷つく」



通りで同じクラスの女子たちからは中学の頃と変わらず暑苦しいと言われ続けるわけだ。


走りながら肩を落とすという自分でも器用だと思う芸当を見せる俺。

運良く走っている最中に教師陣に見つかることはなく、俺も自分の荷物を手に取ると高遠と一緒に校門をくぐって外へ出た。








「高遠帰りどっち?」

「右だけど、名字は?」

「セーフ!俺も右。もしかしてバス?」

「うん」


「おー、一緒じゃん!もしかして、結構前からバスで一緒だったかもな!」

「名字は朝練で早いだろ?帰りも部活で遅いだろうし、時間が合わない」

「あ、ほんとだ」



なんて頭が悪そうなことを俺が言っている間にバス停に到着。

んー、このままバスに乗るのも良いけど、今日は折角部活をサボれたんだし、どうせだから高遠とどっか寄り道したいなぁ・・・





「高遠!バス乗るのストップ!折角だし、買い食いしながら帰ろうぜ」

「え、ちょっ・・・」


高遠が何か言うその前に「早く行こう!な!」と走り出せば高遠は大きなため息を吐いた。




「明日も朝練で忙しいんじゃないのか?」

「平気平気。俺、一度も時間通りに朝練参加したことねーもん」


「・・・スポーツ推薦だろう?大丈夫なのか?」

「あれっ、スポーツ推薦のことも知ってんだ。ははっ、心配しなくっても試合では大活躍だし大丈夫だって。コーチも、俺が朝弱いの分かってくれてるし」




たまに重い拳骨を喰らうけどな!と笑う俺に高遠も笑ってくれた。音楽室で見た時の笑みとは違う、自然な感じのその笑みに何だか嬉しくなった俺は「よし!細い高遠のために俺が何か奢ってやるよ!」と近くのコンビニを指差した。

そんなの悪いよと言う高遠にしつこく「奢るから!」と言えば諦めたのか「じゃぁこれ」と棒アイスを手に取った。



「え、アイス?今日そんなに暑くないけど」

「名字がさっきからずっと走らせるから、暑いんだ」


そういえば音楽室からずっと走りっぱなしな気がする。




俺の財布事情を気にしてか一番安いアイスを手に取った高遠に正直なところ内心ほっとしつつ、俺も同じアイスを手に取りレジでお金を払った。奢ると言っても、あんま高い物を奢ると俺の財布の中身がヤバいことになる。



コンビニを出て早速袋を開けてアイスを頬張れば、季節に関係なく美味しいソレに元々良かった機嫌が更に良くなる。

隣でアイスを一口齧り「やっと涼しくなるよ」と呟く高遠も、心なしか機嫌が良さそうだ。



お互いに機嫌が良い状態のままアイスを齧りつつ会話をすれば、自ずと会話も弾む。

そうすればあっという間に時間は過ぎ去って、アイスもあっという間になくなった。






「これって当たり付きだったんだな。外れちゃったけど」

丸い字体で『はずれ』と印字された棒を見れば隣の高遠から「あ」という声が零れ出た。



「僕は当たりみたいだ」

「マジでか!当たりだともう一本だろ?またコンビニ行くか?」


「流石に短時間で二本もアイスを食べたら身体を冷やすし、また今度にするよ」

「まぁそうだよな。じゃぁその当たり棒は今日の記念な!」


な!と笑えば高遠も笑って頷いてくれた。これ、もう知り合いじゃなくって友達じゃね?と思ってしまった俺は悪くない。新しい友達が出来た瞬間は何時だってテンションが上がる。















「じゃぁな、高遠!」

アイスを食べ終わってからもしばらく喋った俺は高遠と一緒にバスに乗り込み、高遠よりも先のバス停でバスを降りた。


大きく手を振る俺にバスの窓から軽く手を振る高遠。その顔には小さいながらもちゃんと笑みが浮かんでいて、俺の笑みは更に深まった。



走り去って行くバス。

どうせだから明日はサッカー部の見学にでも来て貰おうかと目論みつつ、鼻歌交じりで帰路についた。









その腕を引いて行く








「・・・ふふっ」

名字が降りた後、バスの中で一人先程の『当たり棒』を眺めていたら自然と笑みが零れた。


きっと名字の中では僕は既に『お友達』のカテゴリに入っているのだろうと思うと、今日の出来事は本当にラッキーだったと思う。





朝練に何時も遅刻する名字。朝は少し早目のバスに乗る僕。

実の所、名字の姿は毎朝見かけていた。もちろん名字は知らないだろうが。

クラスの女子たちが言っていたから知ったのではない。バスで姿を見て、放課後は音楽室の窓から練習する様子を見て、本人が喋っている姿を少し離れた場所から眺めて・・・




「・・・今日は本当に、ラッキーだ」

このラッキーを存分に利用しよう。今度は運ではなく、実力で名字の心に僕と言う存在を植え付けてやろう。


何時しか名字が僕だけしか見れなくなる姿を夢見て、僕は手の中にあった当たり棒をぎゅっと抱きしめた。



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