名前は嘘吐きだ。
「名前・・・名前は、俺の事・・・好きか?」
「ん?もちろんだよ、アリババ」
笑顔を顔に張り付けて、嘘を吐く。
もちろんだと言う名前からは、甘い匂い・・・そうそれは、まるで女の人が付ける香水のような匂い。
「私はアリババが大好きさ」
優しい風を装って俺の頭を撫でる手には、昨日までは付けてなかった高そうな腕輪。
ちらりと見えた腕輪の内側には、知らぬ女の名が彫ってあった。
嘘吐き嘘吐き!
まるで嫉妬に狂う女のように名前を怒鳴りつけたいと思うけれど、そんなことをすれば名前はきっと俺のことを嫌いになってしまうだろう。
それは本当に怖いこと。俺にとっての恐怖。
だから俺は・・・
「・・・そっか」
そう言って、名前と同じように笑顔を顔に張り付けて「嬉しい」と嘘を吐くんだ。
「名前、あのさ、明日は――」
「明日?あぁ、明日はちょっと用事があるんだ」
「・・・わかった」
ほら、やっぱり名前は俺の事なんてどうでも良いんだ。
約束したじゃないか。
明日は・・・一緒に出掛けようって。
俺、楽しみにしてたのに。
名前にとってはそんな約束、どうってことないんだ。
「明日は、何処に行くんだ?」
「んー・・・ちょっとね」
もういっそ、はっきり言ってくれれば良いのに。
そうすれば俺は、この気持ちに区切りが付けられるのに。
嘘吐き名前。そうして名前は俺に嘘を吐くんだろう。
いや、きっと名前はいろんなところで嘘を吐いているんだろう。
街で偶然名前を見かけた時、綺麗な女の人と一緒にいた。
けれどその前には、別に綺麗な女の人といた。
その前も、更に前も、前も前も・・・
名前はいろんな人に嘘の愛を囁いて、いろんな人を騙して・・・
そこまで知っているのに、俺は名前に仮初の愛を強請ってしまう。
何も知らないであろう彼女たちより、俺はずっと愚かだと思う。
でもそれでも、好きで好きでたまらなくて・・・
ずっと一緒にいて欲しくて、邪魔だとは思って欲しくなくて、だからだから、俺は・・・
「・・・アリババ?」
そっと肩に手を置かれて身体がビクッと震える。
目の前には、心配そうに眉を下げている名前。
「何で泣いてるんだ?」
「ぇっ・・・」
言われてから気付く。
俺、泣いてたんだ。
目の前の名前は困惑しているようで、内心ちょっとだけ気分が良かった。
普段は笑みを崩さないその顔が、俺のせいで困惑してる。
なぁ、名前・・・
どうやったら、名前は俺だけの名前になる?
名前がずっと傍に居てくれるなら、俺・・・どんな風にだってなれるのに。
名前名前、俺は名前が大好き。名前がいなくちゃ寂しい。
「明日っ、俺の傍にいてくれよ・・・」
我が儘を言っちゃいけない。わかってる。けど、涙と一緒に言葉が零れた。
困ったような顔をする名前。
そんなに、俺の知らない相手のところがいいのか?
「駄目、なのか?」
「・・・ううん。駄目じゃない。だた、ちょっと都合が悪いんだけど・・・用事が終った後でも良い?」
まるで小さい子供に言い聞かせるように、名前が俺の頭を撫でながら言う。
用事が終った後・・・きっと、凄く待つことになるんだろうな、となんとなく思った。
寂しい。何で名前には俺だけじゃないんだろう。俺には名前だけなのに。
俺は名前だけを愛してるのに。
名前は嘘ばかり。嘘に塗り固められてる。
ホントなんて何一つない。
零れ落ちる嘘
「名前っ、俺だけを愛して・・・」
「当たり前じゃないか。アリババだけを愛するよ」
・・・ほら。また嘘を吐いた。
あとがき
初のマギ夢がこんなシリアスな話になってしまうとは思ってもみませんでした。
・・・耐え切れず涙をぽろぽろ零すアリババ君は可愛いと思います。←