赤い髪の旅人
「○○さん!」
僕がガバッと抱きつけば、彼を「ぉっと」と言いながらも、笑顔で僕を受け止めてくれた。
抱きついたとたん、衝撃で軽く揺れた○○さんの赤毛は、とても綺麗。
僕を優しく見詰めてくれる、金色の瞳は、ちょっとだけ僕の嫌いな満月の光を思い出してしまったけど、それを忘れさせてくれるぐらい、○○さんの目の奥には“優しさ”があった。
○○さんと出逢ったのは――満月の夜。
人狼として、人では無い姿になってしまった僕がいる、叫びの館の扉を、平然とした顔で開いた人物。
直後、僕は何かの魔法で、気絶させられた。
満月が過ぎ、僕が人の姿に戻れた頃、丁度目が覚めた。
その時、僕に優しい笑顔で「おはよう」と言ってくれたのが○○さん。
あんなに優しい笑顔を向けられたのは初めてな気がして、とても嬉しかった。
何でこんなところに?という疑問なんて、すぐに吹っ飛んでいた。
「聞いて、○○さん。今日は、夕食のデザートにチョコレートが出たんだよ?」
夜になれば、僕は寮を抜け出して○○さんに会いに行く。
あの日から、○○さんはずっとこの叫びの館に居る。
どうしてずっと此処にいるのか分からないけど、僕は毎晩会えることが嬉しかった。
「フフッ・・・それは良かったな」
ギュゥギュゥッと抱きついて、○○さんの胸に頬擦りをする。
笑顔で僕の頭をなでてくれる○○さん。
もしも兄という人物が自分にいたなら、きっとこんな感じだったのかもしれない。
いや・・・兄より、もっと温かいかもしれない。
「はい!○○さんの分のチョコレート」
ポケットの中からチョコを出せば、○○さんは小さく笑って「有難う」と受け取ってくれる。
銀紙を剥がし、パクリッとチョコを食べた○○さん。
僕がじぃっと見詰めていると、ちょっとだけ苦笑しながら「見られると食べにくいよ」と呟いた。
慌てて目をそらして「ごめんなさい」といえば、○○さんは僕の頭をなでてくれる。
「美味しいよ。有難う、リーマス」
「ぅんっ」
お礼を言われたことが嬉しくて、僕は○○さんの胸に、更に顔を埋めた。
○○さんはそんな僕を優しく包みこみ「今夜はもう帰ったほうが良い」とあまりに無情なことを言った。
優しい手つきでそんな無情なことを言われてしまった僕は、どうしてもネガティブになってしまう。
「僕が・・・邪魔?」
「邪魔じゃない。むしろ、楽しい。だけど・・・君はホグワーツの生徒なんだから、そろそろ寮に帰らないと。ね?」
まるで小さな子供に言い聞かせるように言った○○さん。
ちょっと気に食わなかったけど、○○さんからすれば僕はまだまだ子供なのだろう。
そう思えば、幾分か仕方ないということで片付けられた。
「ぅん・・・わかった」
しぶしぶそう返事をして、僕はそっと○○さんから離れる。
それがとても名残惜しくて・・・
本当は、今夜は最後まで○○さんと一緒にいたかった。
「○○さんっ・・・」
館から出る直前、僕は○○さんを振り返る。
名残惜しくてたまらない僕を見て、○○さんは微笑む。
「おやすみ。リーマス」
「・・・おやすみなさい」
優しい声に押し出されるように、僕は叫びの館の外へ出た。
すでに、叫びの館が・・・○○さんの家のような感じがした。
戻る