009
「どういうつもりだ!」
「ん。何がだ」
休み時間、○○を連れて普段人の通らない廊下へと行った。
「何故あんなことを言った!」
怒鳴り散らしたい気分だが、何とか音程は抑える。
「あんなことが何のことかわからない」
恍けているわけではなさそうだ。
いや、そっちの方が性質が悪い。
「あからさまにクラスの人間と僕に対しての態度が違う!あれじゃ、怪しまれるっ!」
「・・・そうか、セブルスに迷惑がかかったか。すまない」
「ぁっ、いや・・・違うんだ・・・ただ、あまり目立ったことはしないでくれ。頼む」
本気で申し訳なさそうにした○○に、何だか僕が悪いみたいな気持ちになってきて、慌てて首を振った。
「・・・でも、何故あんなことを言ったんだ?下等な生き物だとか・・・」
「セブルスを苦しめる奴らだ。まさしく下等だ」
○○の目が冷ややかになった。
まるで人そのものを見下すような・・・
「・・・その目、止めてくれ。何だか、怖い」
「あぁ、すまない。怖がらせてしまったか・・・」
すぐに謝った○○の手が、僕の頭を撫でた。
温かい・・・
あの目の冷たさが嘘のような、そんな手。
「さぁ、傷を治そう」
○○がそっと僕の腹に触れる。
一気に和らいでいく痛みに、僕は表情を緩めた。
「これからは傷つけさせない。約束しよう」
また約束。
そういえば、○○はよく“約束”を口にする。
その約束はどれもこれも優しくて・・・
「・・・あぁ」
僕は自然と頷いてしまった。
相手はまだ会って間もない・・・というより、よくわかりもしない神なのに、僕は何故だか心を許してしまっていた。
「教科書がまだ届いていない。セブルスのものを見せて欲しい」
「あぁ――・・・いや、駄目だ。見れたものではない」
カバンの中に入っている破れかぶれのボロボロの教科書を思い出し、僕は首を振った。
中の内容は辛うじて全て覚えているから良いものの、あんなのもはや飾りでしかない。
「別に良い。セブルスと席をくっつけていたいだけだ」
「・・・・・・」
はっきりとそういった○○になんだか照れてしまった僕は、無言で○○の胸を叩いた。
「お弁当も持ってきている。一緒に食べよう」
「え・・・何時の間に・・・」
「セブルスが着替えている間に包んでおいた」
あの短時間でやってのけるとは、やはり普通ではないのかもしれない。
僕は「そうか・・・」と小さく頷き、教室に戻ろうと踵を返す。
「セブルス」
「何だ」
「お前だけだ。私を○○と呼んで良いのは」
「・・・あぁ」
「絶対だ」
「・・・ぁ、あ」
何だか気恥ずかしい。
○○は優しい笑顔で「これも、約束だ」と呟いた。
教室の扉をガラッと開く。
「セブルス」
名前を呼ばれたかと思えば、後ろに引っ張られる。
カランッと軽い音を立てて床に落ちてきたのは・・・
――刃が目一杯出されたカッターナイフ。
どうやら扉の間に挟まれていたらしい。
周囲がクスクスッと笑いながら「残念」とか「刺されば良かったのに」という声を発する。
軽くぞっとするものを感じた。
○○はそのカッターナイフを無言で振り上げ・・・
ストンッ
「ぇ・・・?」
一人の生徒が間の抜けた声を上げた。
その生徒の目の前の机に、カッターナイフが刺さっている。
「わぁぁぁああっ!?」
しばらくしてやっと反応したその生徒が、ドサッと椅子から転げ落ちた。
「な、何するんだ□□!!!!!」
「危ないだろ!」
「何やってんの!?最低!」
生徒たちが○○に罵声を浴びせる。
「持ち物を持ち主に返しただけだ。何が悪い」
○○は無表情でそういったかと思うと、今度は僕に向かって「さぁ、席に着こうセブルス」と笑顔で言った。
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