007
そろそろ校門が見えてくる。
「・・・此処までで良い」
僕はパッと○○から手を離した。
○○は小さく微笑んで「教室まで一緒に行く」と言う。
「駄目だ。職員室・・・行かなくちゃならないんじゃないか?」
「・・・あぁ、そうだな」
酷く残念そうにそういうと、○○は「じゃぁ、また」と言って去って行った。
一人校舎の中に入る僕に、視線たちが突き刺さる。
ガラガラッ
「・・・・・・」
「おいおい、また学校来たのかよー」
「ってか、その陰気くさい顔見せないでよねぇー」
ギャハハハハッと品の無い笑い声が教室中に響く。
「や、止めて!」
その一声で、教室がしんっと静かになる。
僕は声の主を見ることもなく、ただただ入口に立っている。
「セブルス君は、その・・・悪くないの!きっと私が・・・」
「菜花、ソイツにを庇う事ねぇって!」
「そうだよ菜花ちゃん。そいつ、すっごく最低なんだから!」
「おいスネイプ!菜花ちゃんに此処まで言わせといて、心が痛まねぇのか!!!!」
痛むわけがない。
だって僕は何もやっていないんだから。
何が菜花ちゃんだ。虫唾が走る。
こんな茶番に付き合う暇なんて――
ガッ
「ぅッ・・・」
頭を殴られ、視界が歪んだ。
その場にしゃがみ込んでしまう僕を見下ろしているのは、別のクラスの二人組。
「くそくそスネイプ!菜花をまた悲しませやがって!」
「菜花は優しいなぁ?」
赤髪と眼鏡の生徒。
眼鏡の方が菜花とか呼ばれた女に近づき、頭を撫でている。
赤髪の方はしゃがみ込んで僕を蹴った。
折角○○が治してくれたばかりの場所に、再び傷がつく。
「なんや自分・・・今日はやけに綺麗な格好してるやないの」
ガッと髪を掴まれた。
あぁ折角○○が梳かしてくれたのにな。
まるで現実逃避のようにそう思う。
頭の中で数を数えるんだ。
痛みは我慢しろ。
そうすればそのうち終わるんだ。
「自分、菜花に悪いことしたっちゅー自覚はあるんか?」
「・・・・・・」
「返事、せぇ・・・よ!」
ドスッという鈍い音がして、眼鏡の方の足が鳩尾に入る。
吐きそうになるのを必死に抑え、何とか耐えた。
「あーん?お前ら、何してやがる」
僕の背後から、また新たな声。
「ぁっ!景吾・・・」
「また震えてやがんのか、菜花」
「ご、ごめん」
「・・・謝んな。お前は何も悪くねぇだろ。悪いのは・・・コイツだ」
僕を足で蹴って退け、あの女に近づいていく男子生徒。
名前は何だったか・・・
いや、どうでも良いことだ。
「おい、お前ら。そろそろHR始まるぞ」
「お。じゃぁもう帰るわ」
そう言って、あの二人が教室から出ていく。
HRという単語に、ほかの生徒たちも散って行った。
僕はその場からすぐに動くことは出来ない。
ガラガラッ
「よーし、HR始め――・・・スネイプ、さっさと席に着け」
「・・・はぃ」
教室に入ってきた教師はちらっと僕を見て、すぐに目を逸らした。
それはこの学校が金持ちだらけで、教師より権力のある生徒が多いせいなのかもしれない。いや、教師たちも僕を嘘吐きだと思っているというのが、一番の理由だろう。
僕はよろよろしながら一番後ろの自分の席へと歩いていく。
「ゴホッ・・・」
軽く胃液の味がする咳にうんざりしながら、僕は痛みを少しでも和らげようと蹴られたところを撫でた。
「今日はこのクラスに転入生が一人来ている」
教師の言葉に教室中が湧き立つ。
僕はなんとなくその正体がわかり、ただただその“転入生”の登場を待つ。
「入ってきなさい」
ガラッ
ゆっくりと開かれた扉から入ってきたのは・・・
「ぇ?」
僕は自分の目を疑った。
教卓の横に立って「○○・□□。イギリスから来た」と言うのは、僕がよく知っているはずの顔。
けれど家にいたときとは違う・・・
何処か・・・底冷えするような笑みを浮かべた○○がそこにいた。
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