006
随分疲れていたのだろう。
僕が次に目を覚ましたのは、翌朝のことだった。
「おはようセブルス」
あれは夢ではなかったらしく、僕の目の前には穏やかな表情をした○○がいた。
ふわりと香る匂いは、バターロールのような・・・
「朝食が出来てる。セブルスはあまり食べる方じゃないから、サラダもパンぐらいだが」
まるで女性をエスコートするように僕をベッドから抱き起した○○は扉を開けて「さぁ食べて」とほほ笑んだ。
「あの・・・」
そういえばこの男は神なんだということを思い出し、ついつい言葉を選ぶ。
「畏まらなくても良い。楽にしてくれて構わない」
僕がもそもそとバターロールを食べる姿を正面の椅子に腰かけて眺めている○○。
見つめられたら食べづらい・・・
「○○は・・・食べないのか?」
「必要がない」
○○は笑顔で言う。
「そぅか・・・」
「セブルスが食べろというなら食べよう」
僕のサラダに入っていたミニトマトをひょいっと持ち上げ口に入れた○○は「髪を整えてあげよう」と僕の背後に回った。
「別に良い・・・」
「遠慮するな。昔やってあげたじゃないか」
「・・・昔?」
「ぉっと。今のは忘れてくれ」
よくわからないことを口走った○○は何処からともなく取り出した櫛で僕の髪を梳いた。
「綺麗な髪だ」
「・・・よくべたべただと言われるが?」
「私には、艶のある綺麗な髪にしか見えない」
「・・・変な奴だ」
「これでも一応神なのだけどな」
するっと櫛が通る。
何度か梳き、そのうち僕の髪をくるっと弄ると「ほら、食べ終わったなら着替えておいで」と促した。
部屋に戻って着替える僕。
何時の間にやら制服は綺麗になっていて、シャツにはアイロンがかけられていたようで、皺ひとつなかった。
・・・○○がしたのだろうか。僕に朝食を用意してくれたり、結構マメなのかもしれない。
今となっては忌々しいとしか言いようのないその制服に腕を通す。
制服を着て、カバンにボロボロになってしまった教科書を詰め込んだ。
「セブルス。準備は良いか」
「あぁ、大丈夫――」
ガチャッと開いた扉を見た瞬間、僕は絶句した。
「何だその格好は」
「?セブルスと同じ格好だ」
「まさか、ついて来るつもりか!?」
「セブルスは頭が良いから、話が早くて助かる」
○○は僕と全く同じ制服・・・いや、少し着崩しているな。まぁそれを着て、涼しげな表情をしていた。
「大丈夫。セブルスと同じクラスになる」
「そ、そういう問題じゃない」
「?人間の勉強だってちゃんとわかる。安心してくれ」
別にそこを心配してるわけじゃない。
僕は「何でっ」とそれ以上何と言えば良いとかわからなくなる。
「セブルスを助けるためには、傍に居なければならない」
○○はすっと目を細め、僕の頭を撫でた。
「大丈夫・・・私に任せておけば、全て上手くいく」
「・・・っ」
あまりに優しい笑顔に押されて、何時の間にか僕はこくっと頷いていた。
「じゃぁ行こうか」
ギュッと握られる手。
「ぁっ、おい!」
「手を繋ぐのも駄目なのか・・・難しいな」
○○は困ったように言って、僕から手を離す。
何だか申し訳なくなって、僕は「ぁー・・・」と声を上げる。
「・・・少しだけ、なら」
「嬉しい」
○○は小さく微笑んで、また僕の手を握った。
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