005
「ゆっくり寝るんだ」
そう頭を撫でた男は、空っぽになったスープの皿を手に部屋を出て行った。
その間に僕はあの時の本を引っ張り出し、ページを捲る。
「ぁった・・・」
そこにはたしかに【神の召喚】があった。
けれど詳しいことは書かれていない。
あの男が何の神なのか、いや・・・本当に神なのか、それさえわからない。
「何なんだ、アイツは・・・」
ガチャッ
「そう悩むことはない。今はゆっくり寝るだけで良いんだ」
僕は慌てて本を隠そうとするが「隠さなくても良い」と笑われ、つい下を向いた。
「もうわかっていると思うが・・・私は神だ」
「・・・・・・」
「お前は私を召喚した。私はそれに応じ、お前の前に姿を現した」
「はいそうですか、と信じられるわけがない」
「ではこうしよう」
男がすっと僕の頬に手を添えた。
「ぇっ?」
頬に傷のちくちくした痛みが消えた。
それどころか、腕の怪我も、腹の痣も・・・
「な、んで・・・?」
「“返した”だけだ。お前に傷は似合わない」
男が小さく笑い「ほら、綺麗になったろ」と僕の頬のガーゼも包帯も取ってしまう。
これじゃ、治療の意味がなかったのでは?という質問も、男の笑顔を見ていると飲み込んでしまう。
「けれど・・・僕は、何も捧げてない。召喚というのは、それ相応の準備が必要なはずだ。それも、神の召喚ともなれば・・・」
つんっと唇に指が置かれた。
「私はお前だから来た。しかし、対価が必要だとお前が感じるなら、それでも構わない」
すっと目を細めた男が、私をそっと指差す。
「対価は・・・そうだな。お前の笑顔でどうだ?」
『お前の悲しい顔など見たくはないのだ。だから・・・笑え、――』
脳裏に夢の中の言葉が蘇る。
やっぱりこの男は、夢の中の・・・?
「お前が幸せになれるなら、私は力を貸そう。お前に近づく悲しみは全て薙ぎ払ってやろう。約束だ」
ぎゅっとまた抱き締められた。
僕は抵抗することもなかった。
ただただ・・・
「名前・・・」
「ん?」
「僕はお前の名前すら知らない」
抱き締められたまま、おずおずとその男を見た。
男は若干驚いたように瞬きする。
「あぁ、そうか・・・知らないか」
男は困ったように笑ったかと思うと「私はお前の名前を知っているから、お前も私を知ってるつもりでいた」と呟く。
その困ったような表情の中に、何だか寂しげな色が見えたのに気付き、僕は何だか気まずい気持ちになった。
「――○○だ」
笑顔でそういった男は、チュッと僕の唇に口付けた。
「よろしく。私の愛おしいセブルス」
「〜〜〜っ!と、突然何をするんだ!!!!」
「何って・・・接吻だろう?」
「な、何故するんだ!」
「・・・?」
男・・・いや、もう○○で良いだろう。
○○は心底不思議そうに「何故怒っている?」と尋ねてくる。
コイツ・・・
「き、キスなんて、いきなりするものではないだろう!」
「そうか・・・では、接吻をするぞセブルス」
「いッ、言っても駄目だ!!!」
「・・・難しいな」
本気で唸りだす○○はしばらくして「だったら接吻も対価にするか」などと言い出した。
「む、無理に決まってるだろう!」
「そうか」
「え?」
「セブルスが嫌がるなら、それは止めておこう」
あっさり引き下がった○○は「さぁ。話は此処までだ。明日に備えて寝よう」と笑った。
・・・イマイチどころか、○○のことが全くわからない。
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