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006




何日も食事を取らない“小松”は、当然のことながら徐々に弱っていった。




膝を抱えたまま、ぼんやりとした表情で部屋の隅を見つめているその光景は、何処か狂気すら感じさせるような・・・



ガチャッ

そんな彼に、スタージュンは今日も食事を運んだ。


別に食事を運ぶぐらい、ジョージョーに任せても良かったのだが、何故だかスタージュンはこうやって毎日食事を持ってくる。

スタージュンはソレを食べろと言い、彼はそれを拒絶する。


何時もなら、スタージュンはそのまま部屋を後にしていた。

けれど今日は違ったのだ。





「ぇ・・・?」

彼は目を疑った。


突然、スタージュンに見せられる映像には、彼の記憶の中にあるトリコと・・・“小松”が楽しげに笑いながら食事を取っている様子が映し出されていた。

最初は意味がわからないと言いたげにその映像を見ていた彼も、次第に青ざめていく。





「こ、れは・・・何ですか?」

「今、ジョージョーにあちらの様子を小型機械で撮影させた。これは、今の奴らの映像だ」


「・・・今?そんなの可笑しい・・・だって、僕は・・・此処に・・・」

その様子を見ていたスタージュンは、静かな声のまま言う。







「私は、もう“小松”という料理人は、解放している」







静かな部屋の中に、スタージュンの言葉は嫌なほど響いた。

茫然とする彼。





「・・・ぇ?だ、だって、それじゃぁ・・・」

僕は、何?と彼は震える。





映像の中の“小松”は笑っている。

では、今此処で震えているのは誰だろうか。彼は理解できずに震える。




「彼らから見れば、お前は“小松”ではない」


「ぅ、そだ・・・」

「・・・・・・」

震えは次第に増していく。





「ぅそ・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!!!!!!!!!!」

ガタガタッと震えながら声を上げる彼は、ポロッと涙を流した。




「こんなのっ、悪い夢だッ・・・」

「・・・夢ではない」


「ッ、だって・・・僕はッ、僕は、小松ですよっ!?ホテルグルメで働いてて、トリコさんのパートナーで、それでッ、それで――」


パニック状態の彼の肩に、スタージュンが手を置く。

ビクッと震えた彼は、怯えたようにスタージュンを見る。


ゆっくりと首を振ったスタージュンの手には、今日の食事。





「・・・食事を取れ。まずは、それからだ」

目の前に出された料理は、まだ温かな熱を放っていた。


「・・・・・・」

それを無言で受け取った彼は・・・





「ぅ、ヒックッ・・・ゥッ」

ボロボロッと泣きながら、食事を取った。


久しぶりの食事がどんな味だったかなんて、彼にはわからなかった。

胸に止め処なく悲しみが溢れ、今にも発狂してしまいそうで・・・



それをじっと見つめていたスタージュンは、そんな彼を哀れとは思わなかった。



ただただ・・・

彼が食事を取るのを、静かに見つめていた。


しばらくして、食事を取っていた彼の手が止まる。





「・・・もう、お腹いっぱいです」

まともな食事が久しぶりすぎて、胃がそれほど多く食べ物を受け入れなかったのだろう。


皿の上にはまだだいぶ残っているが、スタージュンはこくりと頷く。



「疲れているだろう。少し寝ろ・・・話はそれからだ」

部屋から出ていくスタージュンをぼんやりした目で見つめてから、彼はゆっくりと目を閉じた。





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