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001




【□□:未詳事件特別対策係へ転属】




そう記載された薄っぺらい紙を手に、俺は頬を掻いた。


「ぁー、島流しっすか?俺」


未詳って確か第五課じゃん。俺のいる課より遙か最下層じゃん。

俺の言葉に部長は苦笑を浮かべて口を開く。




「違う違う。簡単に言えば、未詳を見張っててほしいんだ。彼らはSPEC保有者たちと多く関わっているようだからね」

「SPEC・・・あぁ、あの何か凄いヤツっすか」


部長にこっそり知識として教えられたその存在。

まさかそれがこの島流しの原因になろうとは・・・




「SPEC保有者の存在があまり認知されていない今の時代、SPEC保有者の起こした事件を法では裁けない。公安零課のやり方では、SPEC保有者の反感は大きい。我々が裏で手を貸さなければならないんだよ」

今更ながら、俺のいるこの部署には、俺と部長しか存在しない。


イコール、たった二人の部署・・・というか、もはや忘れ去られた部署だ。給料が出ること自体が奇跡に近い。





「それはどちらに手を貸すんっすか?公安零課?それともSPEC保有者?」

「どちらにもだ」


「あはは〜、どちらともつかずっすか?何だか優柔不断っすねぇ?」



「○○」



「・・・はぁーい」

軽口か過ぎたか。

少し厳しめの声で俺の名を呼んだ部長に俺はふぅっと息をつく。



「・・・んで?――部長のSPECでは、何がわかってるんすか?」

「何もわかってない」


「あはっ・・・マジっすか」

「ただ、今回の鍵はお前だ。“この世界”では、どうか皆が助かってほしい・・・」




切実な声。

俺が鍵、か。嬉しくもねぇよ。






「・・・っつーか、部長のSPECって大変っすよねぇ?」

「そう言うな。私だって悩んでるんだ」


「けどやっぱり大変っすよ。――“パラレルワールド”を行き来しちゃうSPECなんて」



パラレルワールドを行き来するSPECなんて、証明する方法もほとんどない。

ただ、俺がこの部署に配属になったとき、部長に言われた第一声が・・・






『○○!小学生の頃に好きな子の前でずっこけて誤って相手の子のスカート脱がしちゃったっていう過去を持つ○○!またお前と同じ場所で働けるなんて、私は嬉しいよ!』

おいコラ、そりゃ俺の黒歴史だ。






・・・ってなわけで、俺はそのすぐ後に『あ゛?何処でそれを知りやがったコラ。返事によっちゃ犯すぞ。公開処刑すっぞ』って部長を締め上げ、部長のSPECを知ったわけだ。

・・・今考えると、ろくでもねぇ出会いだな、オイ。



「それ、他の世界のお前にも言われたぞ、○○」

「マジっすか。やっぱり俺は何処の世界でも俺ってことっすね」


部長曰く、他のパラレルワールドでは俺が部長の上司だったらしい。何ソレ凄いって感じだ。




あっちの世界の俺は部長のSPECを笑顔で受け入れてくれて、よく相談に乗ってくれて・・・

そして、とある事件を深く知りすぎてしまった部長が殺されそうになったところを、俺が庇って・・・死んでしまったらしい。


他の世界で助けようとしたのだが、結果は同じか、はたまた失明だったり手足を失ったり、植物状態だったり・・・

まともに五体満足で動いてるのは、今や部下な俺ぐらいらしい。


上司な俺はほぼ全滅。だからなのか、部長は滅茶苦茶俺を可愛がっている。





「お前を未詳に潜入させるのは、本当は気が引ける。しかし、これも未来のためだ。今度こそ・・・」

「わかってるっす。部長、酒飲むといっつもそのことで泣くから、もう懲り懲りなんすよ。だから、この世界で終わらして、別の世界の俺にも心の平穏与えてやるっす」


「○○さん・・・」

目を潤ませて俺を見る部長。

あぁ、ヤバイぞこれ。




「ぁー、こらこら。泣かないでくださいよ部長。男前が台無しっすよ?」

「・・・すまない○○。感傷に浸ってしまって」


上司だった俺が死んだ時、部長は相当ショックだったのだろう。しかも自分を庇って。

パラレルワールドの俺・・・何無駄に男前なことしてんだよ。



「いいっすよ別に。んじゃ、俺は荷物まともて未詳に行って来るっす」

「あぁ。俺は何時でもお前のサポートをするからな」


「部長も、下手に動いて危ない奴等に狙われないように」



俺はそれだけ言って、自分の少ない荷物をちゃちゃっとまとめて未詳へと向かった。





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