×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




004




「御免下さい」

トントンッと扉を叩く。返事は無い。


モデルになると約束した次の日、部活が早く終わって、はじめは手に沢山の袋を手にしたまま、あの洋館へと足を運んでいた。



「御免下さい!」

声を上げるが、やはり返事は無し。



「・・・まったく」

はじめは何気無くドアノブに手を伸ばす。



ガチャッ

「・・・何て無用心な」


鍵は開けっ放しで、簡単に開いてしまった。



相変わらず、酷い埃。

とりあえず、此処の家主の姿を探そうと、はじめは扉を開けた。




「・・・何をしているんですか」

男は簡単に見つかった。


はじめが開いた扉の中の部屋に寝そべり、何かをスケッチしていた。




「此処の・・・埃が・・・一番、よく積もってる」

「さっさと掃除しますよ!!!!!」

「・・・掃除」

男がじっとはじめを見る。


見れば、男はまた埃塗れ・・・まぁ、こんな埃の積もった部屋で寝そべれば、そうなるだろう。




「そうです。こんな埃っぽい場所、僕には耐えられません」

「俺は・・・別に」


「僕が耐えられないと言っているでしょう」

未だに寝そべったままの男を立ち上がらせ、その手にゴム手袋を持たせた。





「・・・・・・」

「今日は掃除しますよ!僕だって忙しいんですから、早く終わらせますからね!!!!!」


はじめはせっせとゴム手袋をつけて言い放った。


黙ったままの男は、とりあえず小さく頷くと、はじめの指示を待つようにぼーっと立っていた。




「まずは要らないものを捨てますからね!自分が少しでも要らないと思うものは、すぐに捨てて下さい!!!!!」

「・・・・・・」

こくりと頷いているから、理解はしているのだろう。

のそのそと動き出す男の背中を見つつ、はじめは一番見た目が酷い風呂場へと歩いていった。





「くっ・・・まさか、此処までとは」

洗剤を大量に撒いて、ブラシで擦るが、なかなか落ちない。



「・・・・・・」

「ん?・・・何ですか。要らないものはまとめたんですか?」


風呂場の入り口に立って、じっとはじめを見ていた男。



「・・・代わる」

「風呂場掃除をですか?」


「藻・・・触って、覚える」

・・・風呂場掃除ではなく、藻に触ることが目的らしい。




「・・・意味がわかりませんが、代わってくれると助かります」

小さく息をついたはじめは「じゃぁ、此処はお願いします」と言いながら風呂場を後にした。




「こ、これは・・・」

部屋を見渡したはじめは顔を引きつらせた。


・・・部屋が、まったく変わっていない。





「あの人、全然やる気がないッ!!!!!」

ぎりぃっと奥歯を噛み締めたはじめは掃除用具を手に取る。

手始めに、そこらにある邪魔なものを退かす。




「まったくっ!本当に汚いったらありゃしないッ」

ついにマスクと、三角巾までつけたはじめがとりあえずその辺りに積まれている本類を片付けようとする。



「よぃしょっ」


重たいそれらを退かせば、本と本の隙間に一冊のノートが・・・

どうやらスケッチブックだったようで、中には花やコップやらが描かれていた。




「○○?」

隅っこに書かれた文字を読み上げる。


□□○○。そう書かれていた。




「・・・俺の、名前・・・」

「わっ!?」


突然背後から声が聞こえ、はじめはつい声を上げてしまった。

風呂掃除をしていたはずの男が、何時の間にやら背後にいた。





「じゃ、じゃぁこれは貴方のなんですね」

「・・・大分、昔」


「昔はまともな絵を描いていたんですね」


はじめが見たのは、手足のげた人形や割れた窓、積もった埃を描いている男・・・否、○○ばかり。

だから、こんなに普通のスケッチは、とても新鮮だった。






「・・・・・・」

しかし、○○はただただ黙って、はじめの手にあるスケッチブックを見詰めているばかり。


「あの・・・?」

「・・・別に、そこにあるもの全部・・・捨てても良い・・・」


ふいっと顔を背けた○○は、そのまま何処かへ行ってしまった。

「・・・・・・」


スケッチブックと○○をしばらく見比べたはじめは「・・・捨てるのは惜しいですね」と言いながら、そのスケッチブックを本棚に仕舞う為に別の場所へと置いた。

要らないであろうゴミを袋にまとめ、しばらくは使わないであろうものをダンボールにまとめ、箒で埃を一掃し、モップで床の汚れも落とす。









「・・・はぁっ」

大分動き回ったはじめは、疲労していた。


結局、○○はほとんど動かなかった。

動くとすれば、はじめが忙しそうに動くのを見るために後ろからのろのろ付いて来るときのみ。



確かに勝手に掃除を始めたのははじめ自身なのだが、此処まで手伝わないとは思わなかった。



「・・・まったくっ」

怒りたいが、もうその気力も体力もない。

それに、空腹である。気付けば、日が沈みかけていた。


あらかじめ、寮の方には遅くなると連絡してあるが、生憎夜遅くまでいるわけにはいかない。

まだ汚れが残っているところもあるが、今日のところは諦めた方が良さそうだ。





「また、何も食べないで終わらせるつもりでしょうね」

やはり冷蔵庫には食材がなかった。


それを知っていたはじめは、持ってきた袋の中からパンを取り出す。

夕飯まで作ってやれる時間までは無いと理解していたはじめは、せめてパンだけはと持ってきたのだ。

甘いジャムと食パン。




「○○さん。今日はこれぐらいしかおいていけませんが、今度は自分で何か買って食べてくださいね」

「・・・・・・」


「今日は掃除のせいでモデル、出来ませんでしたけど、次からはお手伝いしますから」



てきぱきと荷物をまとめ、帰ろうとするはじめ。

そのはじめの手を、○○が掴んだ。




「・・・何ですか?」

「・・・・・・」


何も言わない○○。手も、ゆっくりと離された。

理解できないはじめは「とりあえず、今日は失礼します」と言いながら、洋館を出て行った。






一人残された○○は・・・


「・・・・・・」

はじめの置いていった食パンをかじって、またぼーっとし始めた。





戻る