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002




観月はじめは気になっていた。


あの洋館の主・・・

あの――あまりの不潔さを。






「あぁ、もうッ!!!!気になるっ」

それはもう、比較的綺麗好きなはじめにとって、耐え難いことだった。



「あんなに大きくて美しい造りの洋館に住んでおきながら、あの手入のなってない庭も、家主自身も・・・あぁッ、気に入らない!!!!!!」



一人怒るはじめ。

一人で突然怒り出すはじめに、驚かない人間はいないだろう。


周囲は、あぁ今日もはじめの機嫌は悪いのかと、あえて何も言わないことにした。

さわらぬ神・・・いや、さわらぬ観月に祟り無し、である。


「もう耐えられないっ・・・」

バッと自分の荷物を手にしたはじめは、そのまま部活も放りだして真っ直ぐに・・・その洋館へと向かった。








「・・・・・・」

前と変わらず、古びている洋館が、目の前に聳え立つ。


どうやら、今日はあの男は庭にはいないらしい。

荒れた庭をチラッと見たはじめは、また顔をしかめる。



しかし、そこで気付く。

はじめ自身、あの家主のあまりの不潔さに耐え切れずにきたが、さて・・・どう声をかけるか。


突然やってきて、不潔だと言うのはあまりに・・・いや、明らかなる非常識。

それぐらいはじめは知っている。




玄関の前で立ち往生しているはじめは、ハッと気付く。


「・・・チャイムがない」

見れば、玄関の何処にもチャイムらしき姿がなかった。




「もし来客が来たらどうするつもりなんでしょうね・・・」

小さく呟いたはじめは、ジッと扉を睨みつける。

もちろん、睨みつけてもあの男が姿を表すわけもない。



「・・・はぁっ」

勢いで此処にきてしまった自分が可笑しかった。とはじめは玄関から離れようと――





パリーンッ

「!?」





突然、何かが割れる音がする。

バッと視線をめぐらせれば、玄関から大分離れている場所、一階の窓ガラスが割れていた。



地面に無造作に落ちているのは、小さな椅子。

どうやら、あれが原因で割れてしまったようだ。




「ぃ、一体何が・・・」

そう呟き、後ずさろうとしたのもつかの間。


ガチャッと、割れてしまった窓が開き、中からあの男が顔を覗かせた。

まったく生気を感じられない表情で辺りを見渡した男は、はじめと目が合った。


ぴくりと震えたはじめとは違って、男の方はぼーっとはじめを眺めているだけ。

しかし、しばらくすると男の顔は中に引っ込み、代わりに――




ガチャッ

洋館の、立派な扉が開いた。


開いたのは、無言の男。

はじめは「ぇ、ぇと・・・」と声を上げる。




「・・・・・・」

突然、男が扉の端により、はじめが通る分だけのスペースを空けた。


「は、入っても良いんですか?」

声はないが、こくりとダルそうに頷いた男に、はじめは荷物を抱きかかえるように持ち直すと、ゆっくりと足を踏み込む。








「っ・・・」

洋館の中は、何とも埃っぽかった。

ついむせてしまいそうなのを何とか押さえ込み、よたよたと歩く男の後ろを付いていく。


男が一つの扉を開けた瞬間、より一層臭いが強まった。

強い強い・・・油絵の具と埃が酷く混ざった臭いだ。


耐え切れず咳き込んでしまったはじめだったが、男は特に何もいわず、よたよたと椅子に座った。





男が描いているのは・・・割れた窓。

まさか、そのためだけに窓を割ったのだろうか。と思ったはじめは、何ともいえない視線を男に向けた。




「ぁの・・・突然上がりこんですみません。僕は、観月はじめと言います」

とりあえず名乗ったはじめ。しかし、やはり男は先日と同じように、返事をしない。


「特に用事があったわけではないのですが、この洋館が気になって――」




男がゆっくりと椅子から立ち上がる。

すたすたとはじめの横をすり抜け、床に置きっぱなしのガムテープを手に取ると、今度は窓に近付いた。




ベリベリッ

「・・・・・・」


はじめはその様子を食い入るように見る。

窓ガラスを、ガムテープで貼り付け合わせ始める男。


はじめは目眩を感じた。




「何をなさっているんですかっ?」

ぴりぴりとした気持ちをつい声に出してしまいそうなのを押さえつつ、声をかける。





「・・・窓は、閉じてるもの、だ」

「・・・・・・」


やっともらえた返事は、意味不明だった。





ガムテープで窓をべったべたに張り合わせた男。

唯一空気を循環させてくれる窓は、完全に閉じられた。


よく見てみれば、周囲の窓と言う窓が、ガムテープで完全に止められて、空気が入ってこないようになっている。





「・・・・・・」

再びよたよたと椅子に近付いた男は、腰掛け、絵を描き始める。



ぺたっと、小さな音。



ペタッ、ペタッ

しばらく続いていた音は、男が頭を描き始めたことで止む。




ボリボリッ

はじめは顔をしかめた。


男が頭をかくと、白いフケが・・・







「あぁッ!!!!!もう我慢できません!!!!!」

「・・・・・・」


はじめはズカズカと男に近付き、怒鳴るような声を上げる。




「貴方、一体どれぐらいお風呂に入っていないんですか!?それにこの異臭!ちゃんと換気しないと、身体を悪くするでしょう!?ほら!!!!!さっさとお風呂に入ってきなさい!!!!!!」

「ふ、ろ・・・」


「そうです!!!あぁ、もう!!!ほら、さっさと立って!!!!!!」

はじめの剣幕でゆっくりと立ち上がった男を、はじめは「さっさと歩いて!!!!」と急かした。




のそのそと歩く男。

行き先は、はじめの言うとおりに風呂場なのだろう。


ちゃんと風呂に行くかを見届けるためについていったはじめは顔をしかめる。





風呂は・・・

藻で覆われていた。




「ッ・・・汚い!」

「・・・・・・」


「もうシャワーだけでも良いから浴びて下さい!あぁ、何でこんなに汚いのか・・・理解に苦しむ!!!!着替えは!?着替えはあるんですか!?」

「・・・二階・・・クロー、ゼット」

「タオルは!?」

「此処・・・」



「着替えは僕が持ってきますから、さっさとシャワーを浴びて下さい!!!!!その頭、もうべたべたじゃないぐらいに!!!!!臭いも完全に落としなさい!!!!!」

「・・・・・・」



男がゆっくり服を脱ぎ始めたのを確認してから、はじめは風呂場を出て、二階へと進む。




見れば見るほど、この洋館は立派だ。

綺麗な絵画も沢山ある。





「・・・あの人の作品でしょうか、ね」

今頃シャワーを浴びているであろう男を思い出しながら、はじめは呟く。


歩けば、埃が舞っている光景に顔をしかめつつ、開けっ放しの扉を発見。

中にはクローゼット。





「・・・まぁ、少しはマシですね」

少し埃臭いが、あの男が着ていた服よりは幾分かマシな服を発見して、はじめは再び一階へと降りる。


風呂場へと直行したはじめは・・・絶句した。





「何をしてるんですか!!!!!」

「・・・藻を、描いてる」


上のシャツだけ脱いだ男が、スケッチブックを片手に、風呂にこびり付いた青緑の藻を描いていた。





ブチッ

先程から切れていたはじめが、もう取り返しの付かないぐらいキレた。




「さっさと風呂に入れといってるのがわからないんですか!?あぁ、汚い臭い!!!!!異臭の発生源は紛れもなく貴方ですよ!!!!!!僕の視界に入る以上、その汚い格好をどうにかしなさい!!!!!!!」

「・・・・・・」


バッと男の手からスケッチブックを奪い取るはじめ。

男は生気の無い目ではじめを見つめていた。




「ほら脱いで!!!!!ちゃんと風呂に入らないと、このスケッチブックを叩き折りますよ!!!!」

「・・・・・・」


のそのそと、再び男が動き始める。




「・・・次見たときにちゃんと風呂に入ってなかったら、今度は今描いてる途中の絵を処分しますからね」




「・・・・・・」

こくっと、男が小さく頷いた気がした。





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