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001




「あぁ・・・イライラする・・・」

ぽつりと呟いたのは、聖ルドルフのテニス部所属・・・観月はじめだった。


特に何かがあったわけではない。

ただ今日は、無性にイライラとしていた。


それは、同じテニス部のメンバーの顔を引きつらせるほど。

あまりにイライラしているはじめは、何とか気晴らしでもしようかと校外に出た。






「・・・まったく。気分が悪い」

口から出るのは、忌々しそうな声。


本当に、何かあったわけではないのだ。

けれども、胸の中にぐるぐると廻るのは、真っ黒な苛立ちの塊。


この苛立ちは治まりそうにないと自分で理解したはじめは、そろそろ寮に戻ろうかと息をつく。




その時だ。

びゅぅっと、強い風が拭き始めたのは。




「痛っ・・・」

風と共に運ばれた小さな塵が、はじめの目に当たる。


眼球に傷こそつかなかったものの、小さな痛みでじんわりと涙が浮ぶ。

その涙を拭おうとポケットから綺麗に洗濯されたレースのハンカチを取り出す。







「ぁ・・・」

手に持っていたレースのハンカチが、風に舞った。


慌ててハンカチを目で追えば、それが一つの家に吸い込まれるように入っていくのが見えた。



「・・・あぁ、まったくッ」

苛立たしげに声を上げたはじめはグイッと目元を袖口で拭うと、すたすたとその家に近付く。



「・・・・・・」

見るからに古びている洋館。

手入など一切されてはいないのか、周囲の草木は何とも雑に覆い茂っていた。




「・・・だらしない庭だ」

小さく呟きつつ、その洋館の敷居を跨ぐ。


ハンカチはこの洋館に入ってしまったはずだ。しかし、なかなか見つからない。





「ぁ・・・」

自分の探していたレースのハンカチ・・・それは、地面の上にしゃがみ込んで何かをしている背中の、真後ろにあった。



「ぁ、の・・・すみません」

恐る恐る、その背中に語りかけた。

「・・・・・・」

返事は無い。


「ぁの」

再度声をかける。今度は、先程よりも大きな声で。

だが、もちろん返事は無い。




「あの!!!」

近付きながら声をかける。


ピクリッと、ようやくその肩が動いたのを見て、はじめは小さな満足感を感じる。





「驚かせてすみません。ハンカチが飛ばされてしまって」

そういいながらその背中の後ろにあったハンカチを拾う。


少し土で汚れてしまったそれに、はじめは小さく顔をしかめる。




「・・・・・・」

「ぁの、聞いてますか?」


そっとはじめはその背中の人物を覗き込む。

その背中の人物は男で、手にはスケッチブックが握られていた。


描かれているのは、男の足元にある、手足の拉げた人形。





「・・・聞いて、いる」

掠れた声。まるで、ここ何日も声を発していなかったかのようだ。


ゆっくりと振り返った男。

はじめは眼を見開く。






ぼさぼさで、何処か汚い頭。

不健康そうな肌に、隈が濃い光の薄い目。

よれよれの汚れたシャツ。


・・・汚い。その一言に尽きた。




いや、もっと突っ込みたいところはある。

たとえば男が描いているその手足の無い人形だったり、男から漂うかすかな異臭だったり。



「・・・外の風は、絵を描くのには邪魔だな・・・」

ぼぞっと呟いた男は、ふらふらと立ち上がる。



意外にも男は、はじめが思ったよりも遥かに身長が高くひょろひょろとしていて、はじめはこっそりと驚いた。

のそのそと、鈍い動きで洋館の玄関へと歩いていった男に、はじめは何と声をかけたら良いのかわからない。


ただ・・・







「なんて不潔なッ」

男のあまりの汚さに、はじめは先程の苛立ちとは違う、小さな怒りを感じた。


しかしながら、此処はその男の土地で、このままいつづけるわけにもいかない。

若干その男が気になりながらも、はじめはその洋館を後にすることにした。




(それが画家と少年の出会い)





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