×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




008




《フリッピーSIDE》


『ね、一緒にお話ししよう?』



その夢を見始めたのは、戦争がどんどん酷くなり、僕の心が壊れ始めた頃だった。


毎日自分の手が誰かの血で汚れていく。

恐ろしくて、けど逃げられなくて・・・


それがどんどん僕の中を蝕んでいく中、“彼女”は現れたんだ。





『貴方の目は優しいから好き』




汚れている僕をそう言って優しく迎えてくれた彼女は、最初に出会った時はほんの幼い子供だった。


毎日のように夢に見る彼女はどんどん成長していく。



僕に辛いことがあるとすぐに気づいてくれるし、僕に優しい言葉をかけてくれる。

けれど時には僕をきちんと注意してくれる、そんな優しい子だった。





『ねぇ□□・・・』

『なぁに?』


『君はどうして、僕の夢の中にいつも出て来てくれるの?』



壊れかけの僕を踏みとどまらせてくれる、唯一の人。

彼女がいなくなれば、きっと僕は発狂するだろう。




『これは私の夢でもあるから、私からしてみればフリッピーが出て来てくれることが不思議だよ。嬉しいけどね』

『そうなんだ・・・でも、ちょっと残念』


『何が?』

『夢の中だけじゃなくて・・・現実でも会いたいよ。君に、ずっと一緒にいて欲しいから・・・』



夢の中だけじゃ足りないんだ。

いっそのこと、この夢から一生覚めたくはない。


そういう僕に、彼女は優しい笑みを浮かべて言うんだ。




『嬉しい。私もフリッピーとずーっと一緒にいたいわ』

『ほ、本当っ?』


『もちろん本当。私、フリッピーのこと大好きだから』

『ぼ、僕もっ!僕も好きだよっ』




夢の中の彼女に恋をした。


僕よりもずっと強い彼女だけど、彼女の手首にある赤い線をちらりと見たことがある。

彼女は何時も長袖を着てそれを隠していたけど、見えたその線は彼女の苦しみを示しているのを良く知っていた。



だからこそ、僕は彼女を救いたかった。


戦場で心が死にかけていた僕を救ってくれた彼女を守ってあげたかったんだ。




けれど夢の中では常に僕は守られる側。

戦争を終えたにも関わらず、まだ戦争に影におびえる僕に、まるで聖女のような慈愛をくれたのも彼女だ。


感謝してもしきれないし、どんどん彼女に依存していく自分もいた。

戦闘神経症で生まれてしまったもう一人の僕も、彼女のことだけは気に入っていたと思う。






何時の間にか僕はハッピーツリーという大きな木のある街に移り住むことになった。


そこの住人達は誰もが優しかった。

けれどその優しさが逆に怖くて、夢の中では何時も□□に頼っていた。


もし嫌われてしまったらどうしよう。愛想を尽かされてしまったらどうしよう。

そんな僕の悩みも、□□は一瞬で取り除いてしまうんだ。まるで魔法のように。



けれどその魔法も・・・

あの日だけは効果を示してはくれなかった。



あの日は偶然ナイフを見てしまって、覚醒をしてしまって・・・

気付けばもう皆死んでた。


もう何回殺したかわからない皆が皆、僕を恨んでいるような気がして、怖くなったんだ。





『□□・・・会いたいよ』


血まみれのまま、夢の世界にいた僕。

□□は僕のこと嫌いになってしまうだろうか。怖がってしまうだろうか。




『触れたいよ、□□。僕を抱き締めて欲しいっ、僕に触れて抱き締めて・・・ずっと離さないで欲しい』

『・・・・・・』


『お願いっ、会いたい!会いたいよ□□!!!!僕、□□がいてくれないとっ、じゃないと・・・』



縋りつきたいのに、その身体には触れても感覚はない。

その場に崩れ落ちた僕に、□□はいつも通り優しい笑みを向けてくれた。





『フリッピー』

『・・・□□』





『――会いに行く』





その言葉に驚いた。



『約束する。どうにかして、フリッピーに会いに行く。それまで、待ってて?』

□□は僕に嘘を吐かない。何だかそう確信できる。



『ま、待つ!待つよ!僕も彼も、いくらでも待ってるから!だから・・・』

『うん。大丈夫、フリッピーのこと、絶対抱き締めてあげる』


『うん・・・□□っ、大好き』




嗚呼□□・・・

僕の大好きな大好きな□□・・・


艶やかな黒髪も、その大きな目も綺麗で、目の下にある隈なんてまったく気にならない。

身体はほっそりしてて、実は何時も心配してた。



会いに来ると約束してくれた彼女。


じゃぁ会ったらいろんなことをしよう。

僕がチョコチップクッキーを作ってあげる。

出来れば一緒に歩いて欲しいし、一日を一緒に過ごしてほしい。


彼女とやりたいことは沢山あったんだ。

だから――








「――ハッピーツリーの根元に誰か寝てるぞ」



「新入りかな?」

「可愛い女の子だね」



彼女だと確信した。

僕はすぐにそこに向かって・・・――彼女を見つけたんだ。



僕は周りの人に「僕の知り合いだよっ!僕が連れて行く」と言って、彼女を抱きかかえ、家まで走った。




彼女をベッドに寝かせ、丁寧に看病した。

彼女は目をさまし「フリッピー?」と声を上げたんだ。


あぁやっぱり彼女だ!僕が愛してやまない、優しい彼女だ!!!

嬉しくて嬉しくて仕方なかったけど・・・





――フリッピーのこと、絶対抱き締めてあげる





目を覚ました彼女はまだ僕を抱き締めてくれてはいない。

それに何処か余所余所しい。


けどきっと、それはまだこの街に来て間もなくて、混乱してるんだ。

僕が彼女の助けにならなくては。





「□□。今夜は僕が腕によりをかけて夕飯を作るからね」

「ぇっ・・・ぅ、うん」


あぁ、彼女と過ごせて幸せだ。





(え?手首の傷がない?きっとこの街に来てちょっと変わっただけ。彼女は彼女。でしょ?)





戻る