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007




テーブルの上に置かれた紙袋。


ランピーは「明日は朝早くからバイトがあるから」と家に帰って行った。

私は洗面台の前でぼーっとしている。



今の私、酷い顔だ・・・

生気を感じさせない濁った眼をしている。





あの時私の横を通り過ぎて行った“彼女”は、生気に満ち溢れた、明るい顔をしていた。

フリッピーも、まるで幸せを全て掴んだような、そんな顔をしていた。



「ッ、ぉ、えッ・・・」

バッと下を向いて、胃の中のものを吐きだす。



前世で死んでから生まれ変わって今日まで・・・

前世の頃見ていたような夢は一度も見たことがない。


だからフリッピーが今までどう生活していたのかなんて知らないし、フリッピーも私がどうなったかなんて知らなかったはずだ。





フリッピーは優しい人だ・・・

きっと、木の根元に倒れていた“私”をそれはそれは丁寧に看病したことだろう。


“私”はどう思ったことだろうか。



感謝しているだろうか?

ならばその感謝をちゃんとフリッピーに返してあげて欲しい。


フリッピーを笑顔にしてあげたいんだ。だから、私じゃなかろうと、“私”がフリッピーを笑顔に――






「グッ、ぅ・・・」

また口から胃の中のものが出てくる。




「ぁ、ハハッ・・・綺麗ご、と、言って、らんない、やぁ・・・」


綺麗ごとなんてまっぴらだ。

今にも心の中のモノが砕け散りそうなのに!!!!!!






ガチャッ、ガチャッ

「・・・?」


ずっと洗面所にいたから気付かなかったけど、何だか部屋の中が騒がしい気がする。

私は洗面台と口の中を綺麗に流し、部屋へ戻る。





「おいリフティ!もっとしっかり持てよ!」

「シフティ!こっちの方が綺麗だ!」


「っておい、手を離すなって・・・おぉ!?」




ソファーを手にヨロついている誰かを後ろからそっと支えると、今度は悲鳴が上がった。

・・・突然背後に現れるのは駄目だったろうか。





「な、何だ新入りか。脅かすなよ」

いえいえ、それは私の台詞です。


私は彼らの様子にハァッとため息を吐く。





「君らは誰?」


「けっ!そう簡単に教えるわけねぇだろ!」

「馬鹿だろお前!デカイ図体しやがって!」

「その癖ひょろひょろだよな、弱そ!」


・・・何故誰かと聞いただけでそこまで言われなければならないのか不思議で仕方ないのだけど・・・





「じゃぁ仕方ないから帽子の君をA君で、こっちの子をB君と呼ぼう」


「俺リフティ!」

「ぁ、おい!!!!」


B君は嫌だったらしいリフティ。



「・・・チッ、シフティだ」

しばらくするともう一人の方も名を名乗った。


二人とも良く似た姿をしていて、双子なのだろうなと思う。







「で、何をしに来たの?」

「見りゃわかるだろ。泥棒だ、ど・ろ・ぼ・う」


胸を張って言う事じゃないけどね。

私は苦笑を浮かべながらも「で、ソファーを持っていこうと?」と尋ねる。



「いや?テレビと机と食料と服もいただいた」

「・・・よし、返してもらおうか」

私はため息を吐いてシフティを抱き上げた。




「わっ!?お、下せよ!」

「わぁ!?意外に力強い!」


「何処に持ってったの?」

別に殺そうとしているわけでもないのに、二人はガタガタッと震えながら「そ、外のトラックに・・・」と言った。





本当に家の外にはトラックが止まっていて、そこに私の荷物が全て詰まっていた。


私はため息を吐きながら「取りあえず部屋の中に戻すのを手伝ってもらおうかな」と腕の中のシフティに言う。

シフティは苦々しい顔をしながら頷いた。




数十分後、見事に家の中に戻してくれた二人はハァハァッと息を吐いていた。

私はそんな2人に温かな紅茶と甘いクッキーを振る舞った。




「ま、また盗みに来るからな!」

「今度は完璧に盗むからな!」


「あぁ。また遊びにおいで」


「「遊びに来るんじゃない!盗みに来るんだ!!!」」



口をそろえてそういった二人は、ひとしきりクッキーと紅茶を楽しんだ後、家から出て行った。




「・・・ハァッ」

まぁ、彼らのおかげで少しは気がまぎれたし、良しとするか。





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