006
「一緒に買い物に行こうよ○○」
私が作った朝食を美味しそうに食べていたランピーは笑顔でそういった。
「買い物か・・・そういえばまだ必要なものを買い揃えてないかな」
「じゃぁ決まりだね。俺も今日はバイトないし、暇してたんだよねー」
にこにこと笑ったランピーが私の皿に乗っているウインナーを勝手に取って食べた。
その様子に苦笑を浮かべながらも残りの朝食を食べて、身支度を済ませる。
鼻歌を歌いながら「お昼はカフェで美味しいもの食べようねー」というランピーに「あぁ」と頷く。
商店街に到着し、まずは服や歯ブラシといった、生活用品を見に行く。
沢山買ってしまったから、いくつかはランピーに持ってもらった。
「じゃぁ次は食料品を――」
ドンッ
「っと、すみません」
「いえ、こちらこそ」
私にぶつかったのは、サングラスをかけた男。
手には白杖を持っていて、瞬時に私は“盲目”という言葉を連想した。
「おや、聞きなれない声ですね・・・新しい方ですか?」
「はい。○○と言います」
「私はザ・モールです」
軽い自己紹介を済ませると、ランピーが「そろそろお腹がすいたねぇ」とマイペースなことを言った。
「近くに良いカフェを知っていますよ」
「あ、じゃぁそこに行こうかランピー」
「うん」
にこにこと上機嫌なランピーと共にモールさんに付いていく。
盲目だが、なかなか器用らしい。
白杖で地面を叩きながら、正確に歩いていく。
「器用ですね、モールさんって」
「車の運転もできますよ」
「え・・・」
車と言う単語で一番最初に死んだ原因となった車の破片を思い出す。
「もしかして、つい最近車を大破させたりなどは?」
「え?よく御存じですね。・・・もしや、それが原因で何かありましたか?」
私は目を逸らして「えぇ、ちょっとだけ」と言った。
本人に悪気はないんだ。此処は適当に話題を逸らし――
「○○、車の破片で死んだんだよー」
「ランピー・・・」
まさか笑顔でネタばらしをするとは。
ランピーの言葉に肩を落とすと、モールさんが「それは悪いことをしましたね・・・」と申し訳なさそうに眉を下げた。
その様子に慌てて「気にしないでください」と言う。
「何かお詫びをさせてください。そうだ、今日のお昼代は私のおごりということで」
「やった!」
「駄目だよランピー。いいんですよモールさん。気にしないでください」
カフェにたどり着き席に座っても、モールさんは悩ましそうに声を上げていた。
「では、私はどうすれば・・・」
「また一緒にお茶をしてくれれば良いですから。ね?」
小さく微笑みながら言えば、モールさんはくすっと小さく笑った。
「今度の新入りの方は、とても良い人ですね。とっても嬉しいです」
「私もモールさんの様な素敵な方と知り合えて嬉しいです」
「ねぇ、俺はー?」
「ランピーとも知り合えて嬉しいよ」
甘えるように言うランピーにも笑顔で言えば、ランピーは満足したように注文したサンドイッチを頬張った。
「貴方とは素敵なお友達になれそうです」
「奇遇ですね、私もです」
モールさんと軽く握手を交わし、三人でお昼を楽しんだ。
「では私はこれで」
「また今度ゆっくり話しましょうね」
私が言うとモールさんは「えぇ」と笑顔でうなずいた。
モールさんが白杖を使って向かった先には一台の車・・・
本当に運転をしているらしい。
私はその様子に冷や冷やしつつも「ランピー、行こう」と言って歩き出した。
「今日は楽しかったね」
「そうだね」
「また今度も行こうね」
「うん。そうし――」
そうしよう。
その言葉は最後まで続かなかった。
私の手から紙袋が落ちて、地面にドサッという音を立てた。
だって・・・
「□□。荷物は僕が持つよ」
「えっ、良いよ別に。フリッピーはもう沢山持ってるんだから」
「君は細いんだから!ね?僕に持たせて?」
「・・・もぉ。はいどーぞ」
「えへへ・・・有難う□□」
私とランピーの横を、幸せそうに笑うフリッピーと、知らぬ“私”が通り過ぎていく。
私の身体が震える。
隣で心配そうに「○○?」というランピーの声に「だ、大丈夫です」と力なく答える私。
「・・・ッ、グッ・・・」
また私の中の何かがひび割れる音がする。
「○○、一体どうし――」
「ランピー!!!!」
ビクッとランピーの肩が震える。
「兎に角早く帰ろう。うん、それが良い」
地面に落ちた紙袋を拾いあげた私は、すたすたと早歩きで歩き出した。
「ぇ、ま、待ってよ○○〜」
慌てて追いかけてくるランピーを無視して、ただひたすらに・・・家を目指した。
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