005
あの衝撃のサッカーの後、ハンディに商店街を案内してもらったりした。
隣人への挨拶はまだだが、それは明日にでもしよう。
私はハンディと別れた後、帰り道をゆっくりと歩いていた。
「ぁ・・・」
反対側の道から、軍服姿という特徴的な男が・・・
「ぁっ、もしかして新入りの方ですか?」
「ぁ、ぇと・・・」
「すみません。今ちょっと急いでるので、また今度」
「待っ――」
フリッピーは幸せそうな顔で「待ってる人がいるので」と言うと、すっと私の横を通り過ぎて行った。
その時、私の中で何かがひび割れるような音がした。
私はギュゥッと胸を抑えながら「フリッピー・・・」と小さく呟いた。
もちろん当のフリッピーにこの声は届くことはなく、何処か浮かれている風なフリッピーの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
何故?
「あれは私じゃないよ・・・」
その場に崩れ落ちそうになるのを何とか抑え、私は家に帰った。
大きな家。
一人にしては広すぎる気もするが、立派な家だ。
ハンディにはまた後日お礼でもしよう。
あぁそうだ。夕食を食べないと。
「・・・は、ははっ・・・」
駄目だ。
気を紛らわそうとしても上手くはいかないらしい。
フリッピーのことで頭がいっぱいで、どうにかなってしまいそうだ。
私はキッチンにある包丁を取り出し・・・
「ッ・・・」
そっと手首へと滑らせた。
鋭い感覚。
皮が破れ、血が噴き出す感覚。
私はそれをじっと見つめ・・・
何時しかゆっくりと目を閉じていた。
目からこぼれたのは血か涙か・・・
パチッと目を覚ますともう朝で、手首には昨日の分の傷はなく、その代わりに前世に付けた自分への戒めの後だけが、深く深く残っていた。
前世では、手首を切れば少しはすっとしたのに、死んでも死なないとわかっているこの世界では、何とも馬鹿らしいことに感じてしまう。
けれどその馬鹿らしいことを続けてしまう私も、きっとどうかしているのだろう。
フリッピーを笑顔にしてあげたい。幸せにしてあげたい。
そんな明るい願いも、何だか崩れてしまいそうで・・・
ガチャッ
「○○〜、おはよー」
「・・・あぁ、おはようランピー。鍵掛けてなかったっけ?」
「掛かってたから壊した」
「後でハンディを呼ばないとね・・・」
私は苦笑を浮かべながら「良かったら朝食でもどぉ?」と尋ねた。
笑顔でうなずくランピーに「じゃぁ珈琲も一緒に淹れるね」と言いながら、包丁をあるべき場所に戻した。
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