003
意味がわからない。
私は大樹の下で膝を抱えていた。
おそらくこの木がハッピーツリーなのだろう。
私は木を見上げ「なぁ」と声を上げる。
「ハッピーツリー。彼女は誰だ。私の前世とまったく同じ顔をしたあの子は・・・」
聞いても木が返事をするわけもない。
私はキリキリと痛む胸を押さえ、その場でグッと唇を噛んだ。
「どーしたの?」
「・・・・・・」
「あれ?もしかして新入りさん?」
目の前には、水色髪の、鹿の角を連想させるそうな大きな黄色いピアスを付けた、妙に長身な男が一人立っていた。
見下ろされていた私は「・・・あぁ」と返事をしながらゆっくりと立ち上がる。
「わぁ。君意外と身長高いね?」
「貴方の方が高い」
「けど、目線がこんなに近い人って君ぐらいだよ」
嬉しそうに笑う彼。周りに花が飛んでいるように見える。
私は「貴方は?私は○○」と自己紹介をする。
「俺はランピーだよ。あ、折角だから街を案内してあげ――」
ランピーと名乗った彼は突然言葉を止めた。
何処か遠くを見ている。
私は首をかしげてそちらを見る・・・
「なっ」
目の前に大破した車の破片が飛んできていた。
私は「逃げよう、ランピー」と振り返――
「ぇ」
「早く逃げないと死んじゃうよ、○○〜」
何時の間にか何メートルも先を走っていたランピー。
私は逃げる間もなく、身体を破片が分断する激痛を感じ・・・そのまま意識を失った。
嗚呼これがこの世界で初めての死か。
パチッ
「・・・・・・」
目が覚めたのは、見知らぬ家。
そしてその私の顔を覗き込んでいるのも、知らない顔。
「あ、起きたか」
「・・・・・・」
「災難だったな。来て一番最初に出会ったのはランピーで。アイツ、悪気はないけど何時もあぁだからさ、許してやってほしい」
「・・・・・・」
「お前口数少ないな。というか全然喋ってな――」
「誰」
「あ、わりぃ。俺はハンディ。大工だ」
私はその言葉に違和感を覚える。
「あ、この腕か?」
「あぁ、すみません。別に変な意味は・・・」
「いいっていいって。皆最初は此処見るし」
彼は無い腕を見て苦笑を浮かべた。
被っているヘルメットや着ている服からして、大工なのは嘘ではなさそうだ。
「何だかすみません。此処は貴方の家ですか?」
「いや?」
「じゃぁランピー?」
「違う違う。此処はお前の家」
まるで悪戯に成功したような子供のような顔で笑う彼に、私はぽかんとした。
「私の?」
「そう」
「何時建てたんですか?」
「昨日だ」
「私が死んだのは?」
「昨日だ」
・・・なんて仕事の早い人なんだこの人は。
ベッドから起き上がった私は「ぇっと」と彼を見つめる。
「お代だったら気にするな。ランピーが払ったから」
「え」
「『昨日は見捨ててごめんね』だってさ」
案外律儀な人なのかもしれないな、彼は。
私は「そうですか」と頷いた。
「あ。敬語とかいらないからな」
「あぁ、わかった」
小さく笑いながら頷くと、ハンディも笑って返してくれた。
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