002
パチッ
静かに目を開け、ベッドから起き上がる。
少し目をこすりながら洗面所に歩いていく。
鏡を見れば、前髪の長い寝癖のついた成人男性が一人立っている。
顔を洗って、髪を整えてから、再び部屋に戻って今度は着替え始めた。
大して高価でもないジーパンにシャツの上から、裾の長い黒のコートを羽織る。
手首にはリストバンドを付けて、ほら出来上がり。
「フリッピー、今会いに行くから」
今日は君に会える日。
大分待たせてしまったけど、私のこと、ちゃんと覚えててくれるだろうか。
いや、今は私じゃない“私”だから、そのこともちゃんと説明しなければ。
黒のスーツケースを一つ手にして、私は家から出た。
今日でこの家はおさらば。きっと、数か月もすれば次の住人が住まうことになるだろう。
私はその家に特に名残惜しさを感じるわけでもなく、ただただ目的地に歩き出した。
――生死を繰り返す街
この世界には、そんな都市伝説のような街がある。
何処が入口かなんてわからないし、何処が出口かなんてわからない。
まるで意味の分からない街だけど、その街の名前にもなっているとある木が許せば、その街に住まうことが出来る。
どうすれば許され、どうすれば良いのか、そんなことはわからなかった。
けれどつい昨日、私は見つけた。
【ハッピーツリータウン】
目の前の看板を見て、私はほほ笑んだ。
木が私の立ち入りを許したのか、それとも私の執念がそうさせたのか、それはよくわからない。
けれど私は感謝した。
「フリッピー・・・」
彼に会えるなら構わない。
どんなことでもしてみせる。
あの子には、涙よりも笑顔が似合うから、私はあの子の笑顔のために頑張る。
愛する愛するあの子との約束を果たすんだ。
私はその街に足を踏み入れた。
次の瞬間、私は街の外への出口を見失った。
あぁなるほど。私は晴れて此処の住人となったわけだ。
これでフリッピーに会える。
あぁ待っててフリッピー!
私はコートの裾をバサッとはためかせながら、小走りで歩き出した。
フリッピーから聞かされた不思議な街・・・
生と死を繰り返す街・・・
こうしている間にも、フリッピーは誰かを殺すか、殺されるかしているかもしれない。
「!」
見つけた。
平和な雰囲気のこの街には不釣り合いな軍服姿。
優しい雰囲気を持った、緑の髪の男。
間違いない!
「フリッ――」
私は笑顔で彼にかけよろうとした。
ザワザワッ
「・・・何だ?」
何やら周囲が騒がしい。
よくよく見れば、フリッピーをはじめとする住人たちは、一本の大きな木の周りで何やら話している。
気になって覗いてみれば・・・
「なっ!!!」
――私が、木の根元で気を失っていた。
「□□っ・・・!」
ぁ・・・
私は大きく目を見開いた。
泣きそうな、けれど嬉しそうな顔をしたフリッピーが・・・
その、私ではない私に駆け寄り、その身体をぎゅっと抱きしめていた。
「・・・どういうこと?」
呆然としている私が我に返ったのは、フリッピーがその女を大事そうに抱きかかえて何処かへ行った後だった。
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