王子様に差入れ
「美味しそうに焼けたわ」
アタシは満足気に笑ってそのクッキーを見た。
それを袋に入れて、ちょっとリボンをつければ・・・ほら完成。
「○○・・・喜んでくれるかしら」
彼ならきっと嫌な顔一つせずに受け取ってくれると思うけど、ちょっと心配。
アタシはバッグにクッキーの入った袋を入れて、家を出た。
何度も足を運び続けた花屋までの道のりを、アタシは鼻歌交じりに歩く。
ふわりと甘い花の香りを感じ、目の前をじっと見る。
今日の○○は、お花のお手入れをしてる様子はない。
じゃぁ、今日はお店の奥にいるのね。
「○○――」
近づこうとして、アタシは足を止めた。
レジに立つ○○が、一人の女性客と楽しげに話していた。
しばらくそれを見ていることしかできないアタシ。
・・・あの女の子、明らかに○○に好意を持ってる。
○○に向けてる視線は熱っぽい。
じゃぁ○○は?
・・・わかんないわ。
その顔に浮かんでいるのは、いつも通りの笑顔。優しい、王子様みたいな笑顔。
綺麗なリボンの巻かれた花束を、その女の子に渡す。
その様子に、ちょっとだけズキリッと来た。
やめて・・・
その子に花束渡さないで・・・
だって、アタシ、貴方のこと――
「あれ・・・ギャリーさん!」
「ぁっ・・・」
こっちに気付いた○○が、自分から声をかけてくれた。
アタシはハッと現実に戻され、慌てて○○のところへと向かう。
アタシがやってくると、女の子は「ぁ、有難うございました!」と頭を下げて、店を去っていく。・・・邪魔しちゃったわね。
○○は女の子の背中に「有難うございました」と声を上げる。
「・・・邪魔だったかしら」
自分でも吃驚するぐらい弱弱しい声が出た。
驚いた顔でアタシを見る○○。あら、そんな顔も出来るのね・・・
「何故ですか?」
「ぁっ、ううん。何でもないわ」
突然暗い顔しちゃ、○○を困らせちゃうわ!笑顔、笑顔!
「僕がギャリーさんを邪魔だと思うことなんて、ありませんよ」
その言葉に硬直する。
「今日も来てくれて嬉しいです。そろそろギャリーさんが来るかなって思ってたんです」
「ぇっ?」
どうして?という疑問。
アタシは別に、毎日決まった時間に来るわけじゃないのに。
「ギャリーさんが来る気がしたんです。所謂・・・勘、ですね」
にこっと笑った彼は、やっぱり王子様みたいで・・・
レジから離れ、アタシの傍に立った彼が「あれ?」と首をかしげる。
「ギャリーさん、何だか美味しそうな匂いがしますね」
「えっ!?」
お、美味しそう?
「はい。何だかお菓子みたいな・・・何か食べてきたんですか?」
ぁ、そっち・・・
って、何考えてんのよ、アタシ!!!!
「く、クッキー焼いて来たのよ。今日はそのおすそ分け持ってきたわ」
取り出した袋を○○に差し出す。
「僕に?・・・嬉しいです。大切に食べます」
受け取った○○が、心底嬉しそうな顔をしてそういった。
きゅぅんとする胸と同時に、顔も熱くなる。
「ぁ、甘いもの・・・好きなの?」
「甘いものは嫌いじゃないです。けどそれ以上に、ギャリーさんから頂けたことが嬉しいです」
「〜〜〜っ!!!!」
何でそういうことさらっと言っちゃうの!?
か・・・勘違い、しちゃうじゃないの。
「今、一枚食べて良いですか?」
キラキラしたオーラを放ちながら言う彼に、アタシは反射的に「えぇ」と頷いていた。
彼はリボンを解いて、袋の中からクッキーを一枚取り出した。
そのままゆっくりと口に運んだ。
「ん!とっても美味しいです」
穏やかに笑った彼は「何だか、全部食べちゃうのがもったいないぐらい」と言いながら、リボンを再び袋に結びつけた。
「こんなに美味しいクッキー、有難うございます」
「ま、また今度も焼いて来るわ」
「ぇ?本当ですか。嬉しいです」
もう胸がきゅんきゅんし過ぎて、アタシは赤い顔のまま「えぇ!」と何度もうなずいていた。
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