王子様の花言葉
「有難うございました」
花束を手に店を去っていくお客に恭しく頭を下げる彼を見て「○○」と名前を呼んだ。
「いらっしゃいませ、ギャリーさん」
くるっとこちらを振り向き、同じように恭しく頭を下げた彼。
あぁ、やっぱり王子様みたい・・・
「今のお客さん、何だか緊張してたみたいね」
さっきのお客の様子を思い出す。
何だか照れたような、それでいて緊張したような顔で花束を持っていた若い男。
アタシの言葉に○○は小さく微笑んで「そうですね」と頷く。
「今のお客様、愛する方に花束を渡すそうです」
「ぇっ!素敵じゃない!」
じゃぁ、あの花束は恋人に上げるのね。
「そんな大事なお花を任されて、緊張してしまいました」
緊張するぐらい、真面目に選んであげたのね・・・
「○○に花を選んでもらえたその恋人たちは幸せね」
アタシも、○○から花束をもらいたいわ・・・
小さく微笑んだ彼は、徐に傍にあった花を一輪取った。
「どうぞ」
「え?」
目の前に差し出されたのは、青い薔薇。
その薔薇を見ていると、ほんの少しあの美術館を思い出す。
けれど、そんな薔薇も彼とセットになってると、ただただ素晴らしく輝いて見えた。
「差し上げます」
「けど・・・」
「あ。代金ならお気になさらないでください」
「そ、そういうことじゃなくて――」
「僕の気持ちです。受け取ってください」
ねぇ・・・
貴方の気持ちって、なぁに?
「有難う・・・」
薔薇の香りをすぅっと吸い込む。
「“奇跡”」
「ぇ?」
「その薔薇の花ことばです。元々、青い薔薇はどんなに頑張っても生まれなかった・・・だから“不可能”や“有り得ない”という花言葉がついていたんです。けど、今はこうやってこの世に生まれてくれた・・・だから“奇跡”なんです」
他にも“神の祝福”や“夢かなう”というのもあるんですけどね。と、彼は笑った。
「ほら。貴方にぴったりです」
彼の手が伸びてきて、アタシの手にある青い薔薇の花弁を優しく撫でた。
きゅぅんっと胸が高鳴る。
「ぁ、アタシにぴったり、って・・・?」
「ギャリーさんと出会えたことは、僕にとって・・・奇跡ですから」
綺麗な微笑み。
ねぇっ、それって・・・
「・・・期待しちゃいそうよ」
「何か言いましたか?」
「な、何でもないわ!」
慌てて首を振るアタシに、彼は軽く首をかしげつつも「そうですか」とほほ笑んだ。
きちんと棘を取り除いてあったその青い薔薇をギュッと握りしめる。
「嬉しいわ・・・有難う」
精一杯お礼の気持ちを込めて言う。
彼は微笑みを浮かべながら「喜んでいただけて何よりです」と返事をした。
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