王子様は想い人
「あ。いらっしゃい、ギャリーさん」
あれから、アタシはよくこの花屋に来る。
何時だって花屋にいる彼は、アタシに気付くと笑顔で頭を下げてくれた。
最初の頃に比べれば、大分話すようになったと思う。
「見てください。今日は天気も良いので、花も生き生きしてるんです」
本当に幸せそうに話す彼を見ていると、こっちまで幸せになっちゃうわ。
彼にとって、花に囲まれている生活こそ、幸せそのものなのね。
「あら、○○。袖が汚れてるわ」
「え?あぁ、さっき鉢植えを手入れしてたんです。たぶんソレです」
茶色い土の少し付着した袖。
彼は笑顔でそれを見る。
土に汚れても彼の格好良さは全然損なわれないわ。本当に不思議。
彼がキラキラ輝いて見えるの。ううん、本当に輝いてるわ。
「ぁ・・・もしかして、顔にも汚れが付いてますか?」
「ぇ?ぁ、ううん。違うわ。付いてない」
「良かった。お客様の前で汚れた顔は晒せませんから」
アタシが見つめていたのを、彼は勘違いしちゃったみたいね。
「○○はちょっと汚れたって、十分綺麗よ」
そこまで言って、アタシは固まった。
・・・つ、つい言っちゃった!
「・・・・・・」
「ぁ、ち、違うのよっ?別に変な意味じゃ――」
「お世辞でもそう言っていただけて嬉しいです。有難うございます」
何の疑いもなく笑顔でそういった彼に、あぁ彼は天然なのね。と理解した。
格好良いのに可愛いなんて・・・
何よ、反則じゃない。
「それに・・・ギャリーさんみたいに綺麗な人に言っていただけるなんて、ホント光栄です」
「・・・・・・」
殺し文句じゃないの。
格好良くて優しくて、まるで王子様みたいな○○。
・・・世の女の子たちが放っておかないわね。
ついつい大きなため息を付いちゃうアタシを、○○は心配そうに「大丈夫ですか?」と尋ねてきてくれた。
本当に、王子様ね。
「ねぇ、○○」
「はい。何でしょう」
アタシは今日も綺麗に咲いている花々を見る。
「また花、お願いできるかしら?」
「はい、もちろん」
彼がアタシのために束ねてくれる花束。
それが仕事だとしても、彼から花束を差し出されるこの瞬間がアタシは好きよ?
「どうぞ」
「有難う、○○」
だって・・・
まるで○○がアタシに花を贈ってくれてるみたいだから。
アタシの妄想だとしても、すっごく幸せなの。
「ギャリーさんは、本当に花が好きなんですね」
「・・・えぇ、好きよ。とーっても」
手元にある花の花弁を撫でる。
確かに花は好きよ。けど・・・
貴方はもっと好きよ・・・――○○。
「機嫌が良いね、ギャリー」
「ぇっ!?そ、そうかしら・・・」
「うん。最近、すっごく機嫌が良い」
アタシが持ってきたマカロンを片っ端から口に入れているイヴは、こくこくっと頷いた。
可愛らしい机には、同じくアタシが持ってきたお花・・・
「凄く綺麗な花。ギャリー、それ見ながら笑ってる」
「や、やだ・・・アタシったら、つい」
まだ子供のイヴにそれを指摘されちゃうなんて!
アタシは平常心を取り戻そうと紅茶を飲――
「さっきギャリーを見たママがこっそり言ってた。ギャリーの顔、今恋してる人の顔だって」
「!?」
危うく吹き出しそうになった。
ぃ、イヴのお母さん、侮れないわね。
「ねぇ。ギャリーは恋をしてるの?」
「さ、さぁ・・・どうかしらっ」
子供にこんな話しちゃって良いのかしら。判断に困るわ・・・
「はぐらかさないで、ギャリー」
「ぅっ・・・」
真っ直ぐした目で見つめられ、アタシは息を詰まらせた。
しばらくアタシとイヴの間に沈黙が流れる。
折れたのは・・・
「・・・ぇ、えぇ・・・実はそうなの」
アタシだった。
戻る