王子様の手入れ
あの花束をイヴにプレゼントしたら、本当に喜んでもらえた。
喜ぶイヴは、アタシを見て「何か良いことあったの?」と尋ねてきた。
やっぱりイヴは察しが良いわね。と言うアタシに、イヴは照れたように笑っていた。
その数日後、アタシはまたあの花屋の近くまで歩いてきていた。
目当てはあの花屋の店員の・・・○○。
勝手に○○なんて呼んじゃってるけど、大丈夫かしら?
花屋の近くまで行けば、彼と思しき人物が花の前にしゃがみ込み、何かをしていた。
「こんにちは」
アタシが声をかけると、彼はゆっくりと顔をこちらに向けた。
途端、ふわりとほほ笑みを浮かべた彼は「あぁ、この間の」と声を上げる。
「何してるの?」
「花の手入れをしてるんです」
優しく微笑んだ彼の手元には、甘い香りを放つ花があった。
この店の花が綺麗に保たれてるのは、きっと彼のおかげね。
「綺麗ね」
素直にそういえば、彼はにっこりと笑った。
「花は待ってますから」
「・・・何を?」
「花は待ってるんです。自分を綺麗だと言って、持って帰ってくれる人を」
愛おしそうに花を見つめる彼。
・・・ちょっと嫉妬しちゃいそうだわ。花に。
「花は、人が喜ぶが大好きなんですよ。自分を見て、幸せな気持ちになってくれるように、花は綺麗で美しくあるんです」
きゅぅぅぅうんッ!!!!!
「ロマンチストなのね」
「ぁ・・・すみません、つい」
慌てて謝る彼に「いいのよ!」と首を振る。
見た目も王子様だけど、言う事もすっごくロマンチック。
あぁ、駄目。アタシ、彼のこと本気で好きになっちゃうわ!
「じゃぁ、貴方は花が人を幸せにするお手伝いをしてるのね?」
「・・・フフッ。そうなりますかね?」
「きっとそうよ。素敵な仕事だわ」
花に囲まれて優しく微笑む王子様。
彼にすっごく似合ってるわ。
「そう言ってもらえて嬉しいです。ぇーっと・・・」
嬉しそうに笑っていたかと思えば、突然困ったような顔をする彼。
あぁ、そうだ。アタシったら、自己紹介もまだ・・・
「お客様のお名前を聞いても?」
「アタシはギャリーよ。よろしくね、○○」
ついつい彼の名前を呼んでしまうアタシ。
一瞬驚いたような顔をした彼は、すぐに自分のネームプレートを見て「あぁ」と納得したように頷く。
「えぇ。よろしくお願いします、ギャリーさん」
ギャリーさん、か。
何だか恥ずかしいわ。頬も熱いし・・・
「ま、またお花貰って行こうかしら」
「ぇ?有難うございます」
小さく微笑んだ彼に「またお花選んでくれる?」と頼むと「もちろんです」という爽やかな返事が返ってきた。
嗚呼・・・
「どうぞ」
「えぇ、有難う」
周囲に漂う花の甘い香りを吸い込んで、アタシは笑った。
手に収まる花は、あまりに綺麗で、ついつい心も休まった。
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