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王子様と出会う




美術館で奇妙な体験をして、もう1ヵ月以上も経った。





時の流れって早いわね・・・なんて、ちょっと年寄りっぽいことを思いながら、アタシは片手にマカロンの入った箱を持って歩いていた。


あれから、イヴとは何度も会ってる。

イヴの両親には最初こそ不審がられたけど・・・アタシとイヴがただ純粋に友人関係だということを理解してもらってからは、それなりに良い関係を築いていけてる。



今日もイヴとの約束で、イヴの家に行く途中。

お土産のマカロンもちゃんと用意したわ。


イヴもマカロン気に入ってくれたし、お土産はこれでバッチリ。

イヴとの約束の時間にはまだ余裕があるから、アタシはゆっくりと歩く。






「・・・あら?」


その時ふわりと香った、ふんわりとした甘い香り。

それが花の香りだと気づくのに、時間はかからなかった。



綺麗な花が沢山置かれているそのお店。


アタシは、まるで誘い込まれるようにそこへと足を進めた。





「あら、本当に綺麗な花ね・・・」

ふふっと笑いながら花を眺める。


「薔薇の花もあるわね」

ちらっと見えた赤やピンク、黄色や青の薔薇を見て、ちょっと苦笑してしまう。


視線を逸らせば、また他の花も目に入る。

ほんと、何処を見ても綺麗な花で一杯ね。手入れも行き届いてるし、どの花も生き生きとしてるわ。


そうだ。何本か買って行こうかしら。イヴもきっと喜ぶわ。







「いらっしゃいませ」






「ぁっ・・・」

突然アタシに声をかけてきた店員に、アタシはついつい肩を震わせた。



「あぁ、すみません。驚かせてしまいましたか?」

「!・・・ぃ、いえ。平気よ」


アタシは店員を見て軽く目を見開いた。

申し訳なさそうに眉を下げている店員は・・・そりゃもぉ、綺麗な顔してて・・・こう、一片の穢れも無いっていう感じ!


お花に囲まれて、まるで王子様みたい。





「驚かせるつもりはなかったんです。ただ、お客様が随分楽しそうに花を眺めてらしたので・・・」

「いっ、いいのよ。気づかなかったアタシも悪いんだから」


何だかこっちが申し訳なくなってそう言えば、その店員はふわっと笑った。

あぁッ、見れば見る程王子様みたい・・・




「ぁ、貴方、此処の店員さんよね」

「はい。此処でバイトさせて貰ってるんです」


「花が好きなの?」

「はい、すっごく好きです」

キラキラッとした笑顔が眩しいわぁ・・・




「これからどちらに?」

「ぇ?ぉ、お友達のお家よ。一緒にマカロンを食べようと思って・・・」


「きっとお友達も喜びますよ」

優しく微笑む店員に、頬が熱くなるのを感じた。




「そ、そうかしら。・・・そうだわっ、ぇと・・・お花、何本か買って行こうと思ってたの。もらえるかしら」

熱くなった顔を店員から逸らすように花へと向ける。


「もちろんです。どんな花が良いですか?」


「ま、任せても良い?」

「お任せください」

丁寧に頭を下げた彼は、優しい手つきで花をいくつか取り出す。





しばらくして戻ってきた彼の手には、小さな花束があった。



「まぁ、綺麗ね」

軽くうっとりとしてその花束を見る。


彼、花を活けるのも得意見たいね。



「気に入っていただけたようで何よりです」

丁寧に頭を下げた彼と共にレジへと向かい、会計を済ませる。




「また来てくださいね」

にっこり微笑んでアタシを見送る彼。



その時ちらりと見えたネームプレート。

彼・・・王子様の名前は【○○】というらしい。




・・・当分、忘れられそうにないわね。





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