ヒーローの口調
ある一人の少年によってその行方を眩ましたヴォルデモートが復活すると信じて今でも闇の陣営を名乗っている者は少なくない。
今宵も、純血主義の魔法使いが闇の名の下にマグルを殺害しようと――
「残念だが、罪無き人々には指一本触れさせない」
それを止めるのは、たった一人のヒーローだった。
ヒーローは黒のマントに黒のタキシード姿の、まるで仮面舞踏会のような仮面をつけた男だった。
幼さの残る声だが、その圧力から声よりも歳を重ねているような雰囲気を持つ。
仮面の男はその口にふっと笑みを浮かべたかと思うと・・・
「グハッ!?」
「わッ・・・!?」
「ぉ、おい、やめ――」
数名いた魔法使いを一瞬にして気絶させた。
彼の手に握られているのは細い鞭。
「ふむ・・・魔法の一つでも使ってくると思ったが、相手が遅すぎたか」
ヒーローは鞭で魔法使いたちを縛り上げ――
「よっと・・・」
なんとそれを持ち上げた。
明らかに自分の体重よりも重いであろう魔法使いたちを持ち上げたまま・・・
ふわりと浮いた。
まさに、飛んでいるのだ。
魔法使いのように。いや、それよりも自由に。
魔法使いを持ち上げたまま飛んだ彼は、人里離れた人気のない森に魔法使いたちを置いた。
「さて・・・そのうち目覚めるだろう」
拘束を取り、そのまま魔法使いたちを置き去りにヒーローは飛び去って行った。
ヒーローが向かうのはただ一つの場所。
ガチャッ
「・・・ふぅっ、今日も疲れた」
ダーズリー家の、○○の部屋の窓。
窓を開けたヒーローは部屋に入りなが仮面を取る。
たしかにそれは○○で、○○はてきぱきと衣装を脱ぐと、寝間着へと着替えた。
「今日のパトロールもなかなか大変だったが、これで皆が静かに眠れると思うと、喜ばしいことだ」
そう笑い、○○はすぅっと寝息を立てた。
○○はヒーローとしての仕事をこの世界で始めた。
仮面をつけた彼は人知れず闇の魔法使いたちから・・・もしくは、夜を狙って強盗を謀ろうとする者達から街を守っている。
彼がヒーローとして再び活躍する頃には、ハリーはすでにホグワーツへと旅立っていた。
○○にとっては守るべき少年として分類されているハリー。
○○はカレンダーと自身の記憶を照らし合わせながら、ハリーを何時でも手助け出来るような体勢を取っていた。
そして今日――
「・・・ハリーがうっかり死んでしまっては大変だ。今夜手助けに行こう」
○○がヒーローとして・・・魔法界へと飛び立っていった。
それはたった一晩の出来事。
ヒーローの彼はホグワーツにこっそり忍び込むと、ケルベロスの言う部屋へと入っていく。
彼にも襲い掛かろうとするケルベロスは、ヒーローの「おすわり」という穏やかな声で「くぅーん」と座ってしまう。
所謂ヒーローの特権というヤツなので割愛。
数々の罠を難なく潜り抜けた○○は・・・
「クッ、そ、ぉ・・・小僧が・・・」
まるで砂のようにボロボロと崩れる魔法使いの男、クィレルの傍にすっと歩み寄った。
「だ、れだ・・・?」
「少し失礼」
○○はクィレルの崩れかけの顔に手を伸ばす。
ぴたりっと、○○の手が触れた。
するとどうだろう。クィレルの身体が、みるみる再生していく。
「私はヒーロー。君は改心し、罪を償うべきだ。さぁ私の言葉を信じて自首するんだ」
慈愛の目でクィレルと見つめる○○。
茫然としていたクィレルに「まぁ君との話はまた今度」と笑いかけた○○は、クィレルの後頭部をガッと触れ、グググッ・・・と何かを引きずり出す。
『誰だ、貴様は』
「ただのヒーローさ。か弱い少年がうっかり殺されないように手助けに来た。案の定、少年は窮地に陥っていたらしい」
ふっと笑った○○は、床に気絶しているハリーをちらっと見る。
『ふざけるのも大概に――』
「君こそふざけるんじゃない。こんなか弱い少年に大人二人で襲い掛かるとは、ヒーローの私が許さないぞ。さぁ今回は見逃してやろう。君は今すぐここからでていけ」
高らかにそういった○○は、まるで「さもないと・・・」とでも言うように鞭を取り出す。
『フッ、そんなもの俺様には利かな――』
シュパンッ!!!!!
彼の鞭が石の床を鋭く叩いた。
「さて。残念ながら私は実体のない者でも鞭で叩けてしまう能力を持っているのが・・・どうする?」
『・・・チッ』
彼のじっとりと汗をかいてしまいそうな程の恐ろしい雰囲気故か、それともただ単にヒーロー口調の彼と関わるのを拒んだのか、彼――ヴォルデモートはすぅっと消えて行った。
取り残されたクィレルに向かって○○が「君は改心したかな?」と笑いかける。
その笑顔が恐ろしい。
クィレルはあまりの恐怖で気絶してしまった。
「おやおや。相当疲れていたのだろう。敵ながら哀れな」
気絶した理由を別の意味に捉えた○○はクィレルと担ぎ上げ、ハリーへと近づく。
「さて、ハリーを寝室にでも運んで――」
「誰だ貴様」
ハリーに伸ばしかけた手が止まる。
仮面の奥で○○がすっと目を細めた。
「おやおや、先生。ハリーは無事だ。安心してくれ」
「貴様は誰かと聞いている」
「物騒なものをこちらに向けるな。私はヒーロー。怪しい者じゃないさ」
その自己紹介が大分怪しいことを、彼は気づいていない。
彼をキッとにらんだ全身黒の教師――セブルス・スネイプは、彼に杖を向けたまま口を開いた。
「クィレルをどこに連れて行くつもりだ」
「罪を償わせる」
「それはダンブルドアが決めることだ。ソイツを下せ」
杖を○○に向けたまま凄むセブルス。
下手なマネをすればいつでも攻撃するつもりらしい。
○○はふぅっと息を付き、クィレルを床におろした。
「残念だが私は善良な一般人に手を上げることはできない。だから此処は大人しく従うとしよう」
「貴様が何者かという質問には答えないのか」
○○は口元に笑みを浮かべ「だから言ったじゃないか」と言う。
「私はヒーロー!弱い者の味方だ!」
そう言うと、○○はバサッとマントを翻し・・・消えた。
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