006
お茶を飲んでから、レッドは本来の目的を思い出した。
・・・食料の補充だ。
「・・俺、そろそろ・・・」
ゆっくりとソファーから立ち上がったレッドに、○○は少しだけ首を傾げる。
「あぁ、何か用事があったのかな?ごめんね、引き止めて」
「いえ・・・食料、補充に来ただけ・・・ですから」
「そうなの?だったら、私の家から持っていくと良い」
「ぇ・・・」
少しだけ動きを止めたレッドは「・・・悪いですよ」と呟く。
「いいんだよ。今日のお礼だよ。食料庫に、結構沢山あるんだよ?近所の人たちがおすそ分けしてくれてね。相当な量で、私だけでは消費し切れなくてね・・・気にせず持っていってほしいんだよ?」
「・・・じゃぁ・・・お言葉に甘えて」
「うん。エーフィ、案内してあげて?」
○○の言葉で、エーフィは小さく鳴き、レッドを案内するように優雅な動きで歩き出した。
ソファーに座ったままの○○は穏やかに「好きなだけ持っていってね」とレッドに言葉をかける。
エーフィによって食料庫に案内されたレッド。
○○の言葉通り、食料庫には相当な量の食料で埋め尽くされていた。
何種類もある木の実にピカチューが目を輝かせる。
そんなピカチューに、エイフィが熟れた木の実を一つ差し出した。
「ぴっかぁ〜」
嬉しそうに木の実を食べるピカチューを尻目に、レッドは必要最低限の食料を手持ちのリュックに詰めていく。
缶詰も沢山あって助かった。
一通り詰め終えた後、○○のもとへ戻る。
○○は変わらずソファーに座って、穏やかな笑みを浮かべた。
「もう終わったの?もし良かったら、宅配で送るよ?」
「・・・ぃえ、これで十分ですから」
○○は笑顔で「そう」と頷く。
食料の調達も出来、そろそろ帰らなければならない。
「じゃぁ・・・俺、もう・・・」
「もう行くの?」
「はい・・・」
「また何かあったらおいで。私も、その方が嬉しいから」
ひらひらっと手を振りながらそういった○○は、足に擦り寄ってきていたエーフィを抱き上げて「エーフィもピカチューを気に入ったようだし」と笑った。
「・・・そうします」
短く返事をしたレッドは、玄関から出る。
○○の住んでいる家を一度チラッと振り向いてから、レッドはゆっくりと歩き出した。
どれぐらいの時間が経ってからか、レッドは再び雪山へ到着する。
途中に遭遇した野生のポケモンも、レッドやピカチューにとっては敵ではなかった。
さくさくと倒し、簡単に自分の住処としている洞窟に到着する。
「・・・○○さん、か」
リュックの食料を洞窟の奥に仕舞いつつ、無表情のレッドは思い出したように呟く。
小さな呟き。
けれど、静かな洞窟の中にはよく響いていた。
「・・・・・・」
たまには下山してみるものだ。
密かにそう思ったレッドは、少しだけ穏やかな目をしていた。
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