004
《レッドSIDE》
「・・・・・・」
俺は、目の前で温かい笑みを浮かべているその人に、何も言えなかった。
・・・食料が底をついて、久しぶりに下山し買い出しに来ていた俺。
そんな俺が見つけた一見の家は・・・何処か騒がしくて、少しだけ覗いてみた。
そこで見たのが、綺麗な薄桃色の髪の男の人が、もう一人の男に殴る蹴るされている姿。
薄桃色の男の人は、何かを庇っているらしい。
「ねぇ、何やってるの」
俺が声を上げると、男が明らかにビクッとして俺を見た。
近くには、明らかにお金になりそうなものが入ったバックが置かれている。
・・・強盗だって、すぐに分かった。
「エーフィを・・・助けて・・・」
か細い声で、俺にそういった薄桃色の人。
それ以降、声を発することはなかった。
きっと、気を失ってしまったのだろう。
「ピカチュー」
「ピッカッ!!!」
肩に乗っていたピカチューに静かに命令する。
・・・そこからは簡単だった。
強盗は、十万ボルトで気絶して、ジュンサーさんを呼べば、すぐに連れて行ってくれた。
男の人が庇っていたのはエーフィで、ポケモンのワザで気絶させられていた。
エーフィはそこまで酷い怪我じゃない。
どちらかといえば、男の人の方が重症だ。
ポケモンセンターが近くで助かった。
俺はその人をポケモンセンターまで運ぶ。
明らかに俺よりも年上のその人の顔を見たけど・・・とても整っていた。
しばらくして目が覚めた男の人は、手を探るように動かし、近くで眠っていたエーフィに手を触れたとたん、安心した顔をした。
それと同時に、体中に痛みを感じたのだろう。その人は顔をしかめた。
「動かないほうが良いよ。全身、打撲だらけだから」
俺が声を発すると、その人は明らかに驚いていた。
・・・俺がいることに、気が付かなかった?本当に、近くにいるのに。
「この声は・・・君だね。助けてくれたの?」
その穏やかな声に、更に驚く。
「・・・目、見えないの?」
「うん。見えないよ」
俺の質問に、気を害した様子もなく、男の人は笑顔で頷いた。
「此処はポケモンセンター。強盗に家に入られてたんだよ。貴方が目が見えないの、知ってる人物見たいだった。もう、ジュンサーさんに捕まえてもらったけど」
簡単に説明すると「有難う」といわれた。
ついつい「・・・別に」とだけ返してしまう。
「そういえば・・・エーフィの傷の具合は?」
「強盗のポケモンに気絶させられてただけ」
「・・・それは良かった」
そっとエーフィを抱き上げて、穏やかに笑った人。
開いているその人の綺麗な紫のような、桃色のようなその目には・・・光は映っていない。
本当に見えていないのだなぁと思う。
まるでガラス玉のような、キラキラ光っているだけの、その瞳。
「・・・俺が見つけたときもそうだったけど・・・なんで、自分じゃなくて『エーフィを助けて』って言ったの・・・」
ただ助けてといえば良いのに、自分よりもエーフィを助けろといった。
そりゃ・・・自分のポケモンが大切なのはわかる。
けれど、あの状況で進行形で殴る蹴るされている自分より、庇っているポケモンを助けろというなんて・・・
この人は、変わってる。
「?・・・だって、私は意識があったけど、エーフィは意識を失ってたから。自分の怪我の具合はわかるけど・・・生憎目が見えないから、エーフィの傷の具合はわからなかったからね」
俺の言葉に不思議そうな表情をした彼は、そのままにっこり微笑んだ。
「自分より、そのエーフィを優先させたの・・・」
「私の家族だから。唯一の家族でね・・・この子を失ったら、私は本当に・・・何もかもを失ってしまう」
「・・・・・・」
家族は居ないらしい。
「・・・もしかしたら、俺が貴方のポケモンを攫うかもしれないとか・・・思わない?」
なんとなく、俺はそう言った。
「どうして?助けてくれたのに」
不思議そうな顔をするその人に、もっと尋ねてみたかった。
「もしかしたら、自作自演かも。強盗も助けたのも、一人二役の俺かもしれない」
彼は笑顔で首を振った。
綺麗な笑みだった・・・。
「それは違うと、私は思っているから、再度言うよ。――助けてくれて有難う」
その言葉が、俺の心の中に染み渡った。
・・・不思議な人。
ただの優しいじゃなくて、人を安心させるんだ。この人は。
初対面のはずなのに、俺はなんとなくそう思った。
「・・・人を信じやすいんだね」
照れ隠しにそういってみると、彼は小さく笑った。
「私は、ずっと平和な場所で暮らしていたから・・・きっと、人が良く分からないんだろうね」
その言葉は・・・
穏やかなのに、何処か淋しかった。
戻る