003
気付けば私は、気を失っていたらしい。
目を覚ました私はすぐに、此処が自分の家ではないということに気が付く。
何時も私が使っているベッドとは違う。
目が覚めて、最初に感じたのは・・・柔らかいエーフィの毛並み。
その柔らかさと温かさに、エーフィが無事だったことがわかった。
ほっとしてしまい、それと同時に自分に蓄積された痛みが押し寄せてきた。
「ぅ・・・」
「動かないほうが良いよ。全身、打撲だらけだから」
静かな声が、私のすぐ近くで聞こえた。
普段の私は、他人の気配に敏感なのに、今回は私以外の人間の存在に気付けなかった。
きっと、私が混乱していたせいだ。
「この声は・・・君だね。助けてくれたの?」
声からして、私よりも年下の少年。
ちょっと冷めた感じの声が特徴的。
「・・・目、見えないの?」
「うん。見えないよ」
口元で笑って答える。
「此処はポケモンセンター。強盗に入られたんだよ。貴方が目が見えないの、知ってる人物みたいだった。もう、ジュンサーさんに捕まえてもらったけど」
説明してくれる少年。
私が目が覚めたのはポケモンセンターという、普段私の行かない場所だったらしい。
ポケモンセンターに連れてきてくれたのも、きっと彼だろう。
「有難う」
「・・・別に」
私のお礼に、小さな声で返事をした彼。
「そういえば・・・エーフィの傷の具合は?」
「強盗のポケモンに気絶させられてただけ」
「・・・それは良かった」
そっとエーフィを抱き上げ、撫でる。
大事じゃなくて良かった。
気絶させられただけなら、大丈夫だろう。
「・・・俺が見つけたときもそうだったけど・・・なんで、自分じゃなくて『エーフィを助けて』って言ったの・・・」
喜怒哀楽があまり感じられないその声に、私はちょっとだけ不思議に思いながらも、首をかしげた。
「?・・・だって、私は意識があったけど、エーフィは意識を失ってたから。自分の怪我の具合はわかるけど・・・生憎目が見えないから、エーフィの傷の具合はわからなかったからね」
「自分より、そのエーフィを優先させたの・・・」
「私の家族だから。唯一の家族でね・・・この子を失ったら、私は本当に・・・何もかもを失ってしまう」
「・・・・・・」
エーフィは、私の“目”の役割をしている。
この子がいなければ、私は通常の生活を行うことが出来ないだろう。
人間に介護してもらうのは、申し訳ない気分になってしまう。
「・・・もしかしたら、俺が貴方のポケモンを攫うかもしれないとか・・・思わない?」
「どうして?助けてくれたのに」
「もしかしたら、自作自演かも。強盗も助けたのも、一人二役の俺かもしれない」
彼が尋ねたいことは良く分からないけど、私は口元に笑みを浮かべて、首を振った。
「それは違うと、私は思っているから、再度言うよ。――助けてくれて有難う」
「・・・人を信じやすいんだね」
「私は、ずっと平和な場所で暮らしていたから・・・きっと、人が良く分からないんだろうね」
自分のことなのに、私は他人事のように言いもう一回笑って見せた。
自分の笑った顔なんか想像できないけど、これが“笑う”という行為なのは知っているから。
戻る