004
世界の始まりの木だっけ?それを見て来た。
何だかデカイなぁ・・・という感想しかもてない俺は、だから国語の成績が昔から悪かったんだなと苦笑してしまった。
翼があるって凄いな・・・すっごく自由に空が飛びまわれるんだ。
小さい頃、空を飛んでみたいなと憧れたこともあったが、まさかこの歳でそれが叶うとは・・・
叶うはずも、叶える予定もなかったのに、突然叶ってしまうと喜んで良いのかもわからない。
「アポロニアス」
隣にいるのは頭翅。
頭翅は小さく笑みを浮べ、俺を見詰めている。
頭翅は凄く良くしてくれる。
俺が眠たいと思えばすぐそれに気付いて膝を貸してくれるし、俺が何か食べたいかも・・・と思ったら、すぐに果物とかを持ってきてくれる。
何か、俺のことをすっげー理解してるみたいに見得るけど・・・
実際コイツが理解しているのは俺じゃなくて“アポロニアス”なわけで・・・
こんなに良くしてもらってるのに、俺が実はアポロニアスじゃないなんて知った日には、きっと俺を殺しにかかってくるだろうなぁ。
・・・怖っ。
だから俺は、出来るだけ無口を決め込んでいる。
しゃべるとボロが出るだろうから。
頭翅はそんなの全然気にせず俺に語りかけてくるし、問題ないと思う。
「そんなに見詰めて、何かあった?」
「・・・いや」
あえて言うなら、俺はホームシックだ。平和な我が家に帰りたくて仕方ない。
確かに此処はのどかだ。
寝たければ寝て、食べたければ少し食べるだけ。頭翅の膝も、結構気に入っている。
・・・けど、違うんだ。
だって俺はアポロニアスじゃないから。
此処に俺の居場所はないんだ。
「アポロニアス・・・?」
どうしよう。
俺、マジで帰れないんだろうか・・・
「アポロニアス、聞いてる?」
「・・・あぁ、すまない頭翅」
「いや、いいんだ。本当にどうしたんだ?アポロニアス」
心配そうな顔で俺を見詰め、そっと俺の手を握った頭翅に、俺はゆっくりと首を振った。
「・・・私には、言えないことか?」
不安そうな顔をした頭翅に、俺はまた首を振る。
言い訳も考え付かないから、俺は頭翅の綺麗な髪をクシャッと撫で、曖昧に笑った。
とたんに、頭翅が嬉しそうな顔になっていくのがわかる。
俺の行動一つ一つに不安そうになったり嬉しそうになったり・・・忙しいな、頭翅って。
「頭翅は・・・」
「何?」
「・・・好きか?」
俺・・・いや、アポロニアスのこと。
好きかと尋ねた俺に、頭翅は少しだけきょとんとした顔を見せてから・・・
「もちろん」
あまりに穏やか過ぎる顔で言った。
・・・嗚呼、何だろコレ。
アニメで見た頭翅と全然違うから、頭と心が付いていってくれない。
頭翅って、こんな穏やかな顔で笑うんだなぁ・・・とか、こんなに優しい声で語りかけてくるんだなぁ・・・とか。
本来は全てアポロニアスに向けられるはずの言葉が全部俺に向かってくる。
俺としては・・・
何だか複雑な気分だった。
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