002
「○○、一緒にランチに行かない?」
「ぁー・・・僕は良いよ」
「○○。ちょっと離れた街に綺麗な服が売ってたの。きっと貴方に似合うわ」
「服はもう沢山持ってるから・・・」
「クッキーを焼いたの。食べてくれる?」
「・・・ごめん。今食べる気分じゃないんだ」
僕は付き合いが悪い。
僕は確かに死なないけど、皆が死ぬ姿だって見たくないから。
次の日には皆元気になっているとしても、やっぱり嫌だから・・・
コンコンッ
家に立てこもってたら、誰かが僕の家の扉を叩く。
取りあえず少しだけ顔を出して、すぐに帰って貰おう・・・
「はぁい・・・」
そう返事をして扉を開き・・・すぐに後悔した。
「こんにちは○○。・・・今、平気?」
「ぁ、あぁ・・・こんにちは、フリッピー」
僕の心臓がバクバクッと音を上げる。
あぁ、下手すれば口から心臓が出てしまいそうなぐらいドキドキしてる。
別にこれは恋慕とかそんな可愛いものじゃない。
「○○・・・大丈夫?」
「へ、平気だよ・・・」
フリッピーは優しいけど苦手。
「中・・・入っても良い?」
「・・・どうぞ」
怖いけど僕は此処の住民を拒むことなんて出来ないから、フリッピーをやむなく家の中に入れることになった。
僕が警戒していることがわかっているのか、フリッピーが何処か申し訳なさそうな顔をする。
いや、申し訳ないのは僕の方なのに・・・
「僕は離れて座るから・・・」
リビングに案内すると、フリッピーは僕から一番離れたソファーに座った。
こうやって僕を気遣って、出来るだけ僕と距離を取ってくれるのは良いけど・・・
「やっぱりまだ僕のこと怖いんだね・・・」
「・・・ごめん」
「ううん。僕が一番君を多く殺してたみたいだから・・・」
そう。
僕は僕が死ななくなる前、3回に1回はフリッピーに殺されていた。
偶然フリッピーがあの怖いフリッピーになる瞬間に出くわしてしまうことが多くて、散々な死に方が多かった。
身体の一部が破損したり、内臓飛び出るのは当たり前。
引きずり出された内臓で首を絞められたのはもはやトラウマだ。
「君には嫌われてるかもしれないけど、僕は君のこと好きだよ。だから・・・」
「・・・ごめん、フリッピー。別に君のこと嫌いなわけじゃないんだ。ただ僕は――」
そこまで言った時、パリーンッと音がした。
ハッとして窓を見れば、窓ガラスが割れて・・・
「あ、ごめーん、そっちにボール飛んだ!」
外から聞こえた声が誰だったのかはよくわからないが・・・
「・・・・・・」
「ふ、フリッピー・・・」
目の前には、ニヤニヤとした笑みを浮かべた、覚醒フリッピーが立っていた。
一気にあの頃の恐怖がフラッシュバックする。
嗚呼吐きそうだ。吐きそう・・・
「○○・・・」
ガシッと肩を掴まれて、顔を覗き込まれる。
「俺から逃げんなよ、○○」
「っ、ご、ごめん・・・」
「ハッ・・・怖がりだなぁ?」
そういったフラッピーの顔がずいっと近づいてきて、唇に感触が・・・
ガリッ
「ッ・・・」
小さく音を立てた唇。
顔が離れたかと思えば、フリッピーが楽しげな顔で自分の唇についた血を嘗めていた。
僕の唇には小さな傷が・・・
昔の僕なら、唇千切れてたと思う。
ガタガタッと震える僕を放置して「帰る」とか言って家を出て行ったフリッピー。
その直後、家の外では断末魔が聞こえた。
嗚呼、怖い怖い・・・
「・・・・・・」
僕はソファーの上で膝を抱える。
・・・切れた唇は、ひりひりと痛んでいた。
(それが接吻だと気づかぬまま)
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