006
眠れないということは、一日のリセットが出来ないということだ。
重い気持ちは日付が変化しても継続される。
負の感情ほど、継続されるものだ。
けれど、その負の感情をも感じないほど、僕は常にボーッとしているのかもしれない。
部屋の中でただただボーッとしている僕。
視界に映るのは、自分の描いた絵。
自宅にいてすることといえば、絵の制作ぐらいで、他は特に無い。
独り暮らしだから料理だって作る。
得意というわけではないが、苦手ではない。
今日は昼間外を歩き回ったせいで疲れた。だから、夕食は少し手抜きをした。
夕食を腹に納めた僕は、そのまま自身の制作を始めようとした。
今回は何を描こうか。何をして暇を潰そうか。
絵以外に何をすれば良いのかが分からない。
夜という静かな時間を、いままであまり意識していなかった。
気絶が睡眠と同等の意味合いになるというなら、僕はきっと自分の頭を鈍器に思いっきり打ち付けて眠るだろう。
夜はほとんどの人間が眠っている。
眠っていようがいまいが、人と会話をする機会なんて、もともと僕には少なかったし、それは別に構わない。
けれど、夜は・・・
まるで自分だけが目を開いて生きているような気分になり、取り残されたような・・・
そんな、微妙な気分になってしまう。
世界で自分は一人きりになったかのような感覚。
何時も独りだが、この独りが非常に歯がゆさを覚えた。
「・・・・・・」
絵を描こう。
この沈むような気持ちを、絵によって消滅させてしまおう。
巨大な・・・
それこそ、普段自分が描く絵の中では一番大きめのキャンバスを取り出す。
木炭で最初の作業。そして地塗り。
無言でただただ描き進める僕。
カチッ、カチッ・・・
壁に気休め程度に立てかけられている時計が、無機質な音を発した。
僕の筆を動かす音が、まるで時計と共鳴するように響き、僕はそれを無視して絵を描き続けた。
夜中の暗さはより深く。
寂しささえ飲み込まれてしまいそうな外の暗さを横目に、僕はひたすらに筆を動かした。
そうすると、自分が原因不明の不眠症だという稀な人間だということを忘れられる。
自分がこの村に馴染んでいないということを忘れられる。
全て、絵に集中すれば、別のことを何もかも忘れられてしまうんだ。
「・・・ハァッ」
流石に大きい。これは、大分かかりそうだ。
大きな絵をザッと見渡す。
描いている間は良い。描き終わった後のことは考えていない。
おそらく、この絵のせいでアトリエが圧迫されるのは明白。
これだけ大きいと、運び出すのも一苦労だ。
・・・この絵を欲しいという人物がいれば別なのだが、すぐにそんな都合の良い人物が現れるわけもない。
「・・・・・・」
今は何も考えないことにしよう。
僕は、ただ無心になって絵を描けば良い。
無心になって、無心になって・・・
何も考えず、何も感じず、
「・・・ぁ」
窓から差し込んできた光に、僕は小さく声を上げる。
窓の外は既に明るく・・・
「・・・・・・」
そして今日も朝になる。
戻る