005
ザッ
靴を履いている自分の足が、まったく舗装されていない砂利道を鳴らす。
せっかく久しぶりに外に出たのだから、何週間分かの食料を買いだめしておこう。
どうせ、また家に篭りきりの日々に戻るのだから。
「ぁれ、○○さん?」
背後から呼ばれ、僕はゆっくりと振り返る。
そこには、この近くの寺の格好をした・・・
「あぁ・・・静信さんでしたか・・・」
山の上にある大きな寺の副住職をしている若い男の人。
院長をしてる彼とも知り合い。というか幼馴染。
「珍しい。○○さんが外を出歩いているなんて」
彼は僕の近くに来て小さく微笑んだ。
「尾崎医院の院長に絵を届けに行った帰りです」
「クスクスッ。いい加減、名前を呼んであげたらどう?敏夫もそれを望んでる」
僕の言葉を聞いて、微笑みながらそう口にする静信さん。
「寺、すぐそこだから寄っていくかい?」
「ぁー・・・」
チラッと太陽を見て、自分が大分疲れているのに気が付いた。
「お言葉に甘えて」
僕の返答に何処か満足そうな顔をした静信さんに連れられて、寺へと向かう。
寺の石段が少し辛いと思ったのは秘密にして、寺と接している静信さんの自宅へ上がらせてもらった。
「少し待ってて」
僕を座布団の上に座らせた静信さんがそういう。
しばらくして冷たいお茶とお茶請け和菓子を運んできて、僕に微笑みかける。
「敏夫は絵を描いてもらったんだったね。僕も、お願いしちゃおうかな?」
冗談っぽく小さく笑いながら言う彼に「別に構いませんよ」と短く返事をした。
「本当?」
嬉しそうな顔をする静信さんに「嘘と付く必要は無いでしょう」と呟く。
冷たいお茶で喉を潤し、そっとお茶請けの和菓子をそっと口に入れる。
どちらも、上等な物なのだろう。とても美味しかった。
「寺に合うものの方が良いですよね。日本画にしておきますか?」
寺に洋風の絵が置いてあっても、不釣合いなだけだろうから。
けれど、僕の予想に反して、静信さんは「ううん」と首を振った。
「僕の個人用にしたいから。○○さんが良く描いてる、油絵を頼んで良いかい?」
笑みを浮かべてそう言った静信さんに「ところで・・・」と僕は呟きかける。
「・・・執筆、進んでますか」
「もう少しのところかな。・・・ぁ。どうせなら、読んでいく?」
「是非」
分野は違えど、静信さんも僕も何かを“つくる”ということでは同じ。
だからなのか、少しだけ親しみが持てる。
小説はそう・・・“世界”の“中身”を作っていくんだ。
絵も己の“世界”を描く。
側面を描きつくし、世界に色を付けていく。
「・・・・・・」
【――呪われてあれ】
“世界”に目を通す。
僕は、ほんの少し笑みを浮かべた。
「続きが・・・とても、楽しみです」
「出来上がったら、○○さんに一番に見せてあげるよ」
「有難う御座います」
嬉しそうな笑みを浮かべた静信さんを見つつ、僕も少し笑った。
嗚呼・・・
きっとこれが穏やかなのだろう。
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