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《不眠症》
【安眠できない夜が慢性的に続く状態。精神興奮や不安・神経症、脳・呼吸器・循環器などの疾患、薬物中毒、環境条件などの原因がある(広辞苑抜粋)】
僕は不眠症。
この小さな――外場という集落に越してきてから、僕の不眠は続いている。
僕の職業は所謂画家。
越してきた理由は画家らしく、絵を描きたかったから。
ただ無心で、絵をかける静かな環境が欲しかった。
都会に僕が描きたい景色などなく、人物など存在しなく・・・
都会など、上辺は華やかだが、中身が無い。すっかすかの世界など、描く気がしなかった。
だからといって、この集落に特別描きたいものがあったかといえば頷くのは難しい。
ただただ、自然には感服させられる。
卒塔婆を作るためのもみの木が沢山多い茂るこの集落・・・
画家という職業上、眠らないという事は、越してくる前からあったことで、最初はあまり気にしていなかった。
けれど、長い制作期間がひと段落して、さぁ休もうとベッドに入ったときに気付いた。
“眠れない”
眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない眠れない――
僕は、眠れなくなっていた。
眠るのが怖いわけではないのに。
心が興奮しているわけでもないのに。
特に身体に悪いところがあるわけでもないのに。
薬物のようなものに手をだしてるわけでもないのに。
僕は、眠れなくなっていた。
だから、仕方なく僕は再び制作を始める。
完成すればまた新しい絵を描き始める。
部屋中、僕が描いた絵が無造作に置かれるようになり、時折集落の外に売りに出す。
無名に近い僕の絵は、この集落に来てから少し売れるようになった。
何でも、ある一部の人間に、僕の描く絵が痛く気に入られてしまったらしく、最近では売れるペースが上がっている。
といっても、僕が描くスピードの方が上回っていて、部屋の中はやはり絵がひしめき合っていた。
「・・・・・・」
カターンッ
持っていた筆を床に落とした僕は、ただただその場に座り込む。
室内での制作が多いせいか、僕の肌は白い。まるで死人のようだと、噂好きの集落の人たちが呟いていたのを僕は偶然耳にした。
手はもちろんのこと、来ていた真っ白なシャツにも、絵の具が付着している。
「・・・風呂に、入ろうか・・・」
無心になって制作している間は、食事だってまともに取らない。風呂だってそれは同様で、油絵の具やこの暑さから嫌でも出てくる汗の臭いを感じながら、僕は落とした筆をそのままに風呂場へ歩いていった。
・・・――部屋の中央には、出来上がったばかりの絵が、残されていた。
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