004
朝食をちゃんと取らなかったせいか、今日は一日ぼーっとしてしまって、先生にも何度か注意されてしまった。
「よーし、帰るか・・・」
放課後になり、俺はカバンを手に立ち上がる。
今日は確か刺身が安かったはずだ。
「っと・・・まだタイムセールには時間があるな・・・」
時計を見て時間を確認。
仕方ないな・・・何処かで時間をつぶすか。
小さくため息をついて学校の外に出る。
「・・・ぁ、カードキャピタル・・・」
先導が前に行ったと言ってた店か。
ジーッと中をのぞけば、先導の姿を発見。
よくよく見れば、クラスの森川と井崎もいる。
ふーん・・・あいつら、結構仲良くやってんじゃん。
「そんなところで何してるんだぁ?」
「ぁ・・・ぇーっと、すみません。入り口に突っ立ってたから、邪魔でしたよね」
やっぱり、店の前で突っ立ってるのは不審だったかも。
慌てて道を開けると、その人は「ん?お前は入らないの?」と尋ねられた。
「ぁー、いや。中に知り合いが見えたから覗いてただけで――」
「じゃぁ猶更入った方が良いって!なぁ、櫂!」
「・・・俺は知らん」
ふいっと顔を背けた櫂と呼ばれた人。
俺はもう一人の方に腕を引っ張られ、そのまま店内に入ることになった。
「ちょっ、離してくださいってば・・・」
「良いから良いから。それと、無理に敬語使わなくても良いんだぜ?あんま歳変わらないだろ?」
「ぁー、まぁ・・・うん」
俺は小さく頷いてから店内を見る。
小さい子供から、自分と同年代の奴らまで、楽しげにカードで遊んでいる。
「ぁれ?○○君・・・?」
「・・・ぉ、おぅ、先導。楽しそうだな」
こっちに気付いてしまった先導に軽く手を挙げて声を上げる。
「ぇ、どうして○○君が・・・?」
「今日のスーパーのタイムセールまで時間があるんだ。だから、ちょっと時間をつぶそうかと思ったんだけど・・・まぁ、此処に入ったのは偶然だ、偶然」
「ははっ、なんだよソレ。タイムセールって、何か主婦みたいなこと言うな」
「タイムセール馬鹿にすんなよ。あれがあるから、俺はこうやって三食しっかり食べていけるんだ」
軽くソイツを睨みつけながら言うと、ソイツは軽く怯んだ。
「ぉ、おいおい。そんな怖い顔すんなって。・・・ぁ、お前名前は?そういや聞いてなかったよな」
「□□○○。そこにいる先導と同じ中3」
「俺は三和タイシ。よろしくな」
差し出された手を軽く握って握手。
「で、こっちは櫂トシキ」
にっとした笑みを浮かべた三和に紹介された櫂というヤツは、ちらっと俺を見たけど特に何も言わなかった。
「なぁ。時間つぶしたいんだろ?どうせならヴァンガードやらねぇか?」
三和に言われて俺は「ぇ・・・」と声を上げる。
「ぁー、悪い。それは無理だ」
「ん?どうしてだ?」
「ぁ・・・○○君、カード自体持ってないんだよ」
俺の代わりに先導が控えめに説明した。
「それに、ヴァンガードの知識もゼロ。時間があるって言っても、説明まで受けてたら、タイムセールに遅れちまう」
苦笑を浮かべ、ちらっと時計を確認。
後20分は軽くあるな。
「カード買う金も持ってないし、俺はパス。悪いな」
「ぁー、何か大変そうだな」
「慣れればそうでもないけどさ」
ポケットに手を入れて、今日の特売のチラシを取り出す。
「ゲッ!!!!」
俺は大きく目を見開き、チラシを見つめた。
「ど、どうしたの?○○君」
心配そうに声をかけてくる先導に返事ができない。
だって、だって・・・!!!!
「見逃してた・・・今日は卵も特売じゃないか!!!!他のタイムセールよりも開始時間が早いだと!?しかもお一人様一つまで!?こんなに安いのに一つまでとか・・・虐めだろ!クッ・・・他の主婦たちは、自分の子供とか引きつれてくるに違いない・・・勝算が低すぎる・・・どうするっ、これはヤバイぞ・・・」
「お、落ち着けって○○」
三和にどぅどぅっと言われるが、俺の心は収まらない。
「これが落ち着いてられるか!卵はこの歳の子供にとってのタンパク源!これを逃せば、俺の今週の食卓に彩がなくなる!」
俺は店の出口に向かって早足で歩く。
「悪い。俺は自分の食のためにもう行く。それじゃぁな!」
人数では負けるかもしれないが、俺の若さを舐めるなよ!
確実に卵をゲットしてやる!!!!!
「先導、また学校でな!」
「ぇ、ぁ、うん!ばいばい○○君!」
慌てて俺に手を振る先導にフッと笑ってから、俺は全力疾走で店を飛び出した。
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