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001




欠伸をする。

そのまま窓の外を眺める。


今日も良い天気。洗濯物が良く乾きそうだ。






「・・・多勢に無勢!武田軍、ピーンチ!!!!」






突然俺の耳に入ってくるのは、教卓の前で熱く語っている先生の声。

そこでやっと、俺は今授業だったことを思い出す。


黒板を見れば、先生の熱さが転移したような力強い文字と、武田信玄と上杉謙信のカード。先生の手作りかな・・・芸の細かいことだ。


ということは、今やってるのは戦国時代のところか。






「君ならどう生きる!――先導アイチ!!!!」


あ。誰かが指名されたぞ。可哀相に。


先生に指名を受けたソイツにチラッと目を向ける。

指名されたヤツは、クラスでも気弱の分類に入るヤツ。



「は、はぃっ」

先導が気弱そうな声を上げて返事をするのを観察しつつ「ぁー、今日の夕飯は何作ろうかなぁー・・・」と別のことを考えていた。





「先導はこの戦国時代に、何をして、名を残したい!」

「ぁ、あの・・・あのですね・・・ぇーっと」


冷蔵庫にキャベツが残ってたはず。それに今日の夕方は、肉の特売があったはずだ。

よし。野菜炒めにしよう。




「どうしたアイチ」

「俺、久しぶりにコイツの声聞くわ」

「大人しいにも程があるっつーの」


クラスの奴らが先導のことを弄っている。




「どうした先導君。イメージ!イメージして」

先生の声に先導がコクッと頷いた。





「ぼ、僕は・・・後ろの方で、何時でも逃げられるようにしてます・・・」


小さい小さい聞き取りにくい声。

もごもごと頼りなく動いたその口から出てきた言葉に、俺は苦笑した。


クラスには、あはははははっ!!!!!という笑い声が響く。





「どんだけ後ろ向きだよ」

「情けなさじゃNo.1だぜ」

「相変わらずつまんねぇーヤツ」

「雑兵すぎっぞ。いや、雑兵の鏡かな」


雑兵の鏡って何だよ。

クラス中に笑われて、先導の恥ずかしさはピークに達しているのだろう。先導は硬直したままだ。





「先導君。戦国の世なら、生きるための良い考えかもしれませんが、イメージの中くらい、もっと自分を大活躍させても良いのでは?」

「す、すみません・・・」


席に着き、そのまま俯いてしまった先導の顔は赤い。


俺は仕方なく先導に向かって小さく丸めた紙を投げる。

こっちに気付いた先導に口ぱくで『あんま気にすんな』と言って笑う。


眉を下げつつも小さく笑って頷く先導を見てから、俺は再び「今日の特売、肉以外に何かあったっけ・・・」と考え始めた。





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