何時からだったかわかりませんが、私には私にしか見えない友人がいます。
本当に私だけにしか見えないようです。八尾さんにも見えません。
その友人は、自分は神様だと言うんです。
しかも、大昔からこの地を治める神とはまた別の神様だというんです。
幼い頃から友人は私の傍にいますが、大きくなるにつれて、友人は実は私の妄想の産物なのではとさえ思ってしまいます。
それでも友人は私が思いつかないような言葉を私に言ったり、私の妄想では括れないほど、リアルなんです。
「――」
何時ものように、一人祈りを捧げている私。
そんな私の首にするりっと腕を回す・・・友人。
『君はいつも何に祈っているの?』
青年と言えるような風貌をしている彼は、その綺麗な顔で私を見詰める。
幼い頃からずっと一緒だった友人の綺麗な顔は、何度見ても慣れません。
『神様は君のすぐ傍にいるのに』
自分を神様だという友人は、不思議そうな顔をしながら私の手にあるマナ十字を見ます。
『それとも、慶はあの堕神にでも祈っているの?』
「堕神だなんて・・・」
彼はこの地の神を“堕神”と呼ぶ。
もしも彼が私の妄想の産物なら、それは恐ろしいこと。
『我にしてみれば、あんなものは堕神だよ』
おろおろとする私にくっついたままの友人。
「ぃつも、思うんです。貴方は一体――」
『“貴方”?慶、我は“貴方”などではないよ』
少し拗ねたような顔をした友人に、私は「ぁ、いえ・・・」と声を詰まらせる。
『慶。我は名前だよ。そして、我は神様。慶だけに視える、神様だよ』
「けど・・・名前は、私の妄想なんじゃないかって、思ってしまうんです。・・・私を誰よりも理解してくれる、そんな貴方が・・・」
『我は慶を理解している。けれど、我は慶の妄想なんかじゃないよ。慶にしか視えてないだけ。大丈夫だよ、慶』
名前が、私の頬を両手で包み、笑った。
「名前・・・」
『慶が不安がることはないよ。我は妄想でも幻想でもない。此処に、慶の味方としているんだから。・・・ね?』
微笑みながら私をあやすように撫でる名前は、そのままゆっくりと『本当だからね』と呟いた。
「・・・はい」
名前は妄想の産物じゃない。
もしかすると、なんて言葉はいらない。
「――」
『慶。今度は何にお祈りしてるの?』
「わかりません。けれど・・・名前が、ずっと私の傍にいてくれますようにと・・・願っていました」
『お安い御用だよ。我は、慶と一緒にいる』
その優しい言葉に、私は目を細めて笑った。
嗚呼神様